P.I.チャイコフスキー 序曲「1812」

指揮ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー
演奏モスクワ音楽院管弦楽団
録音1990年12月25日
カップリングロッシーニ 「ウィリアム・テル」序曲 他
「The Great Overtures」の一部
発売Yedang
CD番号YCC-0069


このCDを聴いた感想です。


 まずは冒頭の堂々たる響きに驚かされました。
 この部分の強弱はメゾ・フォルテのはずなんですが、響きが分厚くあまりにも堂々としているためフォルテにしか聞こえません。そもそも音量からしてかなり大きいのです。
 一方、楽譜上では、冒頭から少し進んだところで、ピアノから急激にクレッシェンドしてフォルティッシモにするようになっています。
 とすると、冒頭のメゾ・フォルテが既にフォルテ並みのこの演奏が、それからさらにクレッシェンドするとどういうことになるのか。聞く前はどこまで音量が増してしまうのかとドキドキしながら聞いていました。
 ところが、実際にその部分に来てみると、これが全然音量が変わらないのです。
 メゾ・フォルテとフォルティッシモで音量がほとんど同じなのです。
 たしかに、クレッシェンドする部分では、だんだん力を強めているような感じも無くも無いのですが、音量としてはほぼ一緒です。
 そうなっている理由が、曲の最後まで聞いて、なんとなくわかってきました。
 どうやら、録音にいろいろ問題があるようです。
 それも、良い悪いというより、「変わっている」という言い方が最も合っているでしょう。
 冒頭のメゾ・フォルテとフォルティッシモで音量が変わらない点からして変ですが、さらに各パートの音が異様に分離しているのです。
 ライブのはずなのに、ライブ録音でよく感じられる一体となった響きは無く、むしろスタジオ録音でパート毎に一本ずつマイクを立てて録音したみたいに、各パートの動きはわりとはっきり聞き取れるのに全体としてはあんまりまとまっているという印象を受けません。昔のSPとかLP初期とかの頃のスタジオ録音をずっと鮮明にした感じですね。
 バランスとしては、どこか特定のパートが常に強かったり弱かったりするわけではありませんが、メロディーよりもむしろ伴奏の細かい動きがいやに強調されて聞こえたりします。なんだか全体像が無く、細部の拡大写真をいくつもつなぎ合わせたような造りになっています。
 細部をデフォルメして見せているようなものなので『安定』とか『統一感』といった言葉からははるかに遠く、びっくりするような響きやバランスが次から次へと出てきます。
 面白さという点では、たしかにかなりのものだと思います。
 実は、演奏自体は結構しっかりと弾いていて、解釈もそれほど奇を衒ったものではないのですが、おそらく録音によって、やたらヘンな演奏に変わってしまいました。

 演奏している『モスクワ音楽院管弦楽団(Moscow Conservatory Orchestra)』という団体はこの演奏で初めて耳にしました。 ○○音楽院管というと、今は亡きパリ音楽院管弦楽団が思い浮かびますが、パリ音楽院管と同じように完全にプロのオーケストラなのか、それとも文字通りモスクワ音楽院の関係者が中心となった学生かセミプロのオーケストラなのかは、さっぱりわかりません。
 この演奏を聴く限りは、演奏者はそれなりにテクニックがありパートの中ではよくまとまっています。パート同士ではかなりズレてしまうところもありましたが、これはオーケストラというよりも指揮者のロジェストヴェンスキーの責任でしょう。そう考えるとやはりプロのオーケストラなのかもしれません。
 一応、他にもいくつか録音があるようですが、ちょっと情報が少なすぎますね。

 ちょっと蛇足ですが、この演奏が行なわれたのは1990年です。
 つまり、まだソヴィエト時代(といっても末期ですが)の演奏です。
 ということは、終盤に登場するロシア国歌は使えず、その部分を差し替えたシェバーリン版を使用している可能性があります。
 というよりも、そもそもこの演奏のCDを買ったのも、シェバーリン版が使われていることを期待していたからなのです。
 結論を言うと、まあ、通常の原曲通りでした。どうやらソヴィエト崩壊一年前ともなるとそういう規制はだいぶ甘くなっていたようですね。
 もちろん、チャイコフスキーの作曲した通りに演奏するのが本来の姿ですが、シェバーリン版好きのわたしとしては残念でした。(2006/2/18)


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