P.I.チャイコフスキー 序曲「1812」

指揮エサ=ペッカ・サロネン
演奏バイエルン放送交響楽団
録音1984年4月4〜6日
カップリングバラキレフ イスメライ 他
「ロシア音楽コンサート」の一部
販売ポリグラム
CD番号PHCP-9557


このCDを聴いた感想です。


 えーと……若い指揮者ってやっぱりいろいろ変えてみたくなるんでしょうかね?

 この演奏が録音されたのは、1984年。1958年生まれのサロネンはまだ26歳でした。
 26歳という若い指揮者が演奏する「1812」とは……

 とてつもなく変わったテンポの演奏だったのです。

 どこが変わっているかというと、とにかく遅い!
 それも、もともとテンポが遅く設定されている冒頭のラルゴやアンダンテの部分はそんなに変わったテンポではないのですが、ラルゴの後半のピュウ・モッソや、アレグロに入ってからが滅茶苦茶遅いのです。
 ただ、遅いからといって重いという訳ではありません。
 バイエルン放送響のアンサンブル技術にも助けられているのですが、軽めの透明な音色ですので、テンポの割には重っ苦しさを感じさせません。
 それでも、メロディーはかなり情感を込めて歌わせているので、なんだか妙に粘りがあります。
 だんだん聴いている方が息切れしそうな気になってきます。
 演奏時間にしても、他の演奏では平均15分くらいの筈なのに、なんと17分40秒近くもかかっています。
 こんなに時間がかかる演奏は他に聞いたことがありません。
 録音が残っているか残っていないか知らないのですが、もしチェリビダッケが録音を残していれば、いい勝負になりそうです。

 テンポが変わっているので、どうしてもそっちに注意が行きますが、それ以外の部分では、実はけっこうまともな演奏です。
 情感が込められた歌わせ方は、聴き応えがありますし、フォルテの部分でも荒くならず、キッチリとまとめています。
 ただ、ロシア的な雰囲気は期待してはいけません。
 いくらサロネンの出身がロシアのお隣のフィンランドだからといっても、フィンランドとロシアとでは全く雰囲気が異なるようです。
 また、特筆しておきたいのが、バイエルン放送響のアンサンブル技術の高さです。
 いくらスタジオ録音とはいえ、ここまでピッタリ揃ったアンサンブルはそうは無いと思います。
 和音、縦の線、共に恐ろしくハイレベルです。

 さて、「1812」というと、思わず注目してしまうのが後半に出て来る『大砲』です。
 実演ではバスドラムで演奏されることが多い大砲ですが、スタジオ録音では大砲の音が使われる方が多いようです。
 この演奏もスタジオ録音ですので、ご多分に漏れず大砲の音です。
 おそらく実物ではなくエレクトリック・キャノンだと思いますが、右や左で派手にぶちかましてくれます。
 ところで、それを聴きながらふと思ったのですが、イメージ的にはバスドラムより大砲の音の方が迫力があるように思いがちなのですが、実はバスドラムの方がもっと迫力を出せるのではないでしょうか?
 楽譜には「Cannon」と楽器が指定してある以上、本来は大砲が使うのが筋なのでしょうが、大砲の場合、銅鑼と同様、鳴った瞬間よりもほんの僅かに後に音量が最大になり、さらに残響が多いという特性があります。
 それに較べるとバスドラムの場合は、叩いた瞬間が最大の音量で、残響はあまりありません。
 そのため、バスドラムの方が、アタックがハッキリつき、さらに音が残らないため、音が出ている時と音が消えた瞬間の差が短時間で大きく表れるため、結果としてより迫力があるように聴かせることができるのではないかと思います。

 この曲には、大砲以外にもおもしろい使われ方をしている打楽器があります。
 それは『鐘』(Campane)で、楽譜には五線譜が書かれておらず、スネア・ドラムなんかと同様で一本の線だけです。
 その上に一小節につき全音符が一つ書いてあり、それがトリルで引っ張ってあるだけなのです。
 つまり、適当に叩き鳴らせということなのでしょうか?
 実際、いろんなCDを聴いてみても、音は演奏によってまちまちで、適当に叩いているようにしか聴こえません。
 この演奏では、一応トリルらしきものをやっているようなのですが、残響が多すぎて、何がなんだかよくわかりません。
 まるで、曇の日に雲の上を飛行機が飛んでいて、あちこちに反射した音だけが聞こえて来るみたいなモワーンとした響きです。

 いろいろ書いてきましたが、この演奏、なかなか魅力的な面白い演奏です。
 でも、もっと普通に演奏したら、キワモノ扱いじゃなくて、まともないい演奏になっていたような気もしますが……(笑)(2001/7/13)