P.I.チャイコフスキー 序曲「1812」

指揮ウィレム・メンゲルベルク
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1940年4月9日
カップリングチャイコフスキー 交響曲第5番 他
「テレフンケン発売録音集大成」の一部
販売ワーナーミュージック・ジャパン
CD番号WPCS4327〜30


このCDを聴いた感想です。


 一言でいって『緻密』な演奏です。

 この序曲「1812」というと、大砲の音が入ることもあるため、いかにハデであるかが売りになっている演奏が数多くあります。
 確かにフランス国歌とロシア国歌のテーマが出て来る際に響き渡る大砲は非常に迫力があり、わたしなんかは、大砲の音が素晴らしいとあまりの興奮でそれより前がどんな演奏だろうと全て綺麗サッパリ忘れてしまうぐらいですから演奏効果は抜群です。
 この大砲がバスドラムで代用される場合、迫力という点においてはやはり不足を感じてしまいます。
 もちろんこれはCDの場合の話で、実演の場合はまた別です。
 そもそも実演の場合は、野外の演奏でもない限り大砲を使うなんていうのは無茶な話で、ほぼ100%バスドラムでしょう。
 さらに、実演の場合はバスドラムでも十分に迫力があります。
 昨年秋(2000年)、普段全く演奏会に行かないわたしが珍しく聴きに行ったある在京プロオケの演奏会の中で、この曲の演奏がありました。
 この演奏では、バスドラムのパートを演奏するバスドラムと、大砲のパートを演奏するバスドラムとでは、明らかに叩く強さが異なっていました。
 バスドラムが最強音のffffで叩く時も、大砲パートのバスドラムは優に2倍以上の音を出していたのです!
 ……ちなみに、あまりのバスドラムの迫力の前に、それ以外のパートがどんなだったかは、完全に忘れてしまいました(笑)

 話をメンゲルベルクの「1812」に戻します。
 メンゲルベルクは大砲のパートをバスドラムで演奏しています。
 それだけでも迫力という点では不利なのですが、さらに古い録音であるためフォルテの部分でも周りを圧倒するような音響は望むべくもありません。
 大砲のパートのバスドラムにしても、通常のバスドラムのパートと音量がほとんど一緒で、大砲という特殊なパートというより、単にバスドラムが2台になっただけ、という印象しか受けません。
 まあ、大砲のパートが全く聞こえないゴロヴァーノフ盤よりは、マシと言えばマシかもしれませんが……(汗)

 ここまで読まれた方は『それなら、この演奏にはいいところが全く無いじゃないかっ!』と思われることでしょう。
 そこで、最初のキーワードの『緻密』が出てくるのです。
 たしかにこの演奏……いや、この録音はフォルテの迫力は捕らえきれてはいません。
 しかし、代わりにピアノ部分のニュアンスは見事に録音されています。
 そして、このピアノ部分のメロディーの扱い方、ハーモニー、共に他の演奏には見られないほどの『緻密さ』を誇っています。
 これは冒頭の部分が最もハッキリと出ています。
 主題の歌わせ方は、上品と下品のギリギリのラインです。
 メロディーを思い切り抑揚をつけて歌わせていますが、なおも聖歌の厳粛さは失っていないのです。
 おそらくこれ以上色をつけると、厳粛さは失われてしまいクサさが鼻についてくるでしょう。
 これは、Andante以降の速い部分に入っても、L'istesso tempoのような弦楽器のゆったりとしたメロディーには同じ傾向が見られます。
 ポルタメントを使ったりと(だってチャイコフスキーですから!)、存分に色っぽく歌わせていますが、あくまでも崩れないのです。
 そして、速いパッセージは音を短めに切り、スピード感のあるキレの良い音楽を聞かせてくれるのです。
 このキレの良さは、大砲の音とはまた違った意味で圧倒させる迫力を感じます。

 この演奏は、今回取り上げたCDの他に、激安で一躍名を馳せた10枚組みの「HISTORY」シリーズの中にも収録されています。
 この二つのCD、実はリマスタリングがかなり異なっています。
 ワーナーの方が、おそらく元のSPに近い復刻なのに対して、HISTORYの方は、推測ですが後から残響を付加しています。
 そのため、HISTORY盤はワーナー盤より遥かに迫力に富んでいます。
 この迫力の差は大きく、聴いたときの興奮度はかなり異なってきます。
 しかし、その反面楽器間の分離が悪く、クリアさが若干失われています。
 結局『迫力』をとるか『クリア』をとるかの違いなのですが、今回は、迫力が犠牲になっても『緻密さ』がより強調される『クリア』の方を選んだというわけです。

 どうでもいい話なのですが、最近ゴロヴァーノフ盤(シェバーリン版)ばっかり聴いていたせいでしょうか、この曲の最後の方で、ロシア国歌のテーマが出て来る部分を聴いていて、ロシア国歌がでてくると違和感を感じてしまうのです。
 自分が持ってるスコアもロシア国歌が出てきませんし……
 うーん………なんだか間違った道へ入り込んでしまったような気がしないでもないのですが……きっと気のせいでしょう(笑)(2001/4/13)