P.ヒンデミット 交響曲「画家マティス」

指揮パウル・クレツキ
演奏スイス・ロマンド管弦楽団
録音1968年
カップリングヒンデミット ヴァイオリン協奏曲 他
発売ポリドール(DECCA)
CD番号POCL-2782(433 081-2)


このCDを聴いた感想です。


 よく知られていることなので、今さら書くほどではないかもしれませんが、タイトルの「画家マティス」のマティスとは、よく知られているフランスの画家アンリ・マティスではありません。アンリ・マティスより400年ほど前の16世紀に活躍したドイツの画家、マティス・ゴートハルト・ナイトハルト(一般的には別人と取り違えられてマティス・グリューネワルトと呼ばれています)という人物です。フォービズムのアンリ・マティスとは異なり、主な題材はキリスト教に関係するもので、たしかに曲の各楽章のサブタイトルの「天使の合奏」「埋葬」「聖アントニウスの誘惑」もキリスト教絡みです。
 曲の内容も、その三つのタイトルがついている絵から受けた印象についての音楽になるわけですが、クレツキの演奏からは、絵に描かれている題材よりも、その絵が置かれている空間を再現しているというイメージを受けました。つまり、絵に描かれている内容をワン・カットとした動きのある一つの物語ではなく、絵だけで固定されてその前もその後も無い静的な印象、動きよりも空間的な広がりを感じます。
 メロディーは歌っていますが、ドラマチックに表情を付けたりはしません。メロディー主体でそれに周りが付いて行くのではなく、まず全体の大きな響きがあります。メロディーはあくまでもその一部であり、突出しないように調和を保ってその中で歌われています。
 そして、この響きが演奏の最大の魅力なのです。
 スイス・ロマンド管の特徴を上手く生かした薄く遠くまで広がる響きです。薄いといっても、フランス系の上下に薄い、平面的に遠くまで伸びる響きと異なり、もっと立体的に伸びていきます。ドイツ系の中まで濃い分厚い響きの中をくり抜いて外だけ残したようなもので、ドーム状に外殻としてレースのカーテンのように薄く軽く風通し良い壁があり、それに全体がすっぽりときれいに包まれています。
 響きが壁となって覆っているのですが、圧迫感は全くありません。風通しが良く、サラサラと程よく乾いた感触が心地よく感じられます。まさに、マティスの絵の内容というよりも、絵がある空間に浸っているような気分になってきます。
 この演奏が録音された1968年は、スイス・ロマンド管の創立者でもあるアンセルメが1967年に引退してからまだ1年ほどで、アンセルメ当時の雰囲気をまだ残しているのかもしれません。
 ちなみに、1967年に引退したアンセルメの後をついでスイス・ロマンド管の音楽監督となったのが、この演奏の指揮者でもあるクレツキですが、クレツキは作曲家としても知られています。(最初、「悲歌のシンフォニー」で有名なグレツキと間違えそうになりましたが)
 この曲の作曲者のヒンデミットも、作曲家と同時に指揮者(+演奏家)として活躍していて、画家マティスの録音も残していますから、作曲家を兼ねた指揮者の演奏ということで、聞き比べてみるのも面白そうです。(2007/2/3)


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