P.デュカス 交響的スケルツォ「魔法使いの弟子」

指揮アルトゥーロ・トスカニーニ
演奏ニューヨーク・フィルハーモニック交響楽団
録音1929年3月18日
カップリングメンデルスゾーン 「真夏の夜の夢」 他
「ARTURO TOSCANINI and the PHILHARMONIC SYMPHONY ORCHESTRA
OF NEWYORK The Great Recordings 1926-1936」の一部
発売Pearl(Victor)
CD番号GEMM CDS 9373


このCDを聴いた感想です。


「魔法使いの弟子」というと、たいていセットで語られるのがディズニーのアニメーション映画「ファンタジア」です。ミッキーマウスが円錐形の帽子を被った魔法使いの姿で登場するこのシーンは、見所の多い「ファンタジア」の中でも代表的なシーンの一つと言って良いでしょう。おそらく曲自体もこの「ファンタジア」によってグンと知名度がアップしたと思います。
 映画の中でミッキーマウスが繰り広げているように、この曲は、師匠の老魔法使いの留守に仕事を言いつけられた若い弟子が楽をしようと生半可な魔法を使ったために、かえってエライ目に遭うという失敗を描写した音楽です。始めは調子よく進んでいたものの、次第にコントロールが効かなくなり、事態を収拾しようとさらに悪化する。状況はどんどんエスカレートして行き、ついに破滅寸前まで追い詰められた時に、老魔法使いが帰宅して混乱をサッと鎮め、弟子は辛くも窮地を脱するというストーリーがそのまま音楽によってユーモラスに表現されています。
 こういう事態を引き起こすぐらいですから、この魔法使いの弟子は自信過剰か間抜けかその辺りの、老練な老魔法使いと対照的な「未熟」な人物であるはずなのですが、トスカニーニのこの演奏ではまるで別人です。
 未熟どころか既に完成されていて、非の打ち所が無い完璧な弟子になっています。
 他の演奏と較べて相当テンポが速いのに乱れが全く無く、クライマックスに向かって突き進んでいっても破綻のかけらも無く、最後まで整った形を崩さず盛り上がって行きます。
 箒を使って水汲みをさせていても、完全にコントロールできていて、速くなったとしても、箒が勝手にピッチを上げて行ったのではなく、もっとピッチを上げても十分コントロールしきれる自信の下に意識して速めていっている。そんな冷静な弟子の姿を想像しました。
 しかもこの弟子、箒を単に機械的に操るのではなく、箒に意思を持たせて自発的にやらせながら、なおも手綱はしっかりと握っています。
 完璧でも表情の無い機械的な音楽になることなく、メロディーの弾むようなリズムといい、どの音も鋭く立ったキレの良い音で、それが速いテンポに自然に乗って、音楽が生き生きと展開していきます。
 トスカニーニのこの曲の演奏は、ほぼ20年後の1950年にNBC響を指揮した録音もあるのですが、そちらの演奏のほうがこの演奏よりもテンポが遅いのにもかかわらずむしろあわて気味で、浮き足立っています。いやまあ、未熟な弟子を描写したという曲の主題からするとむしろそっちの方が相応しいのかもしれませんが。
 それに今回取り上げた演奏の方が古い録音といっても、録音状態は1929年にしてはかなり良く、雑音もそれほど目立ちません。たしかに細かい動きは多少埋もれていますが、ティンパニーなど打楽器やハープなどはわりと鮮明に聞こえ、メリハリや色彩感は意外なほどしっかりついています。(2007/1/13)


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