M.ラヴェル 亡き王女のためのパヴァーヌ

指揮マニュエル・ロザンタール
演奏パリ・オペラ座管弦楽団
録音1957〜59年
カップリングラヴェル 古風なメヌエット 他
発売Adès
CD番号ADES 205 632


このCDを聴いた感想です。


 夜のように静かに時が流れていく演奏です。
 もともと静かな曲ではありますが、この演奏は特に安らかで落ち着いているという印象を受けます。
 フォルテで瞬間的に力が入ることはあっても、それは全体から見ればごく一部で、最初から最後までのほとんどの部分はひたすら穏やかで、自然と心がゆったりとしてきます。
 これだけゆっくりと静かな演奏ですが、だからといって、ずっと同じような調子の単調に陥ったりはしていません。
 音色による表情の違いも大きいのですが、それと同じくらいテンポの伸び縮みも上手く変化をつけています。
 もちろんテンポの変化といっても、メンゲルベルクのチャイコフスキーみたいに一つとして同じテンポの小節が無いと思えるぐらい頻繁に動かしているわけではなく、基本は一定のテンポで淡々と進んでいきながら、メロディーの変わり目や盛り上がりの最高点に向かって次第に遅くしていく辺りが、自然な変化のように聞こえながらメロディーをより生き生きとしたものにしています。
 全体の雰囲気も、静かで落ち着いてはいますが決して暗くはありません。
 この曲の演奏に多い、重く沈み込むような退廃的で気だるい雰囲気はほとんど無く、むしろ明るさを感じます。
 その明るさも、ギラギラと輝く華美な明るさではなく、月光のようにソフトで落ち着いた明るさで、静かな水面に浮かんでいるように軽く、表面的には何事も無かったように落ち着いていながら、内心は意外と楽しそうにしているような印象を受けました。

 また、この演奏を語る上で欠かせないのが音色です。
 もう、まさにこれこそフランスと言いたくなるような、他の国のオーケストラからは聴けない音です。
 冒頭のホルンソロからして他の演奏とは全く違います。
 鼻にかかった甘い音色、上下に大きく動くビブラート、さらに軽いのです。
 例えば、冒頭の伸ばしている音は、他の演奏では、地に足のついた太く安定感があるものが多いのですが、この演奏では安定感はまるでありません。風にたな引くかのようにフワフワと漂っていて、根元の一点で固定しているので辛うじてどこかへ飛んでいってしまわないでいられるかのようです。
 ファゴットもおそらくバッソンとよばれるフランス式の楽器で、音色も、普通のファゴットよりもずいぶん平たくして横に伸ばした「ニャ〜」という感じのちょっと金属っぽい音で、今ではフランスのオーケストラでさえもここまでバリバリのフランス系の音はちょっと無いのではないでしょうか。
 弦もひたすら軽く薄いものです。
 シャラシャラという感じの軽く擦ったような音で、きっと力強い音はそれほど得意ではないのでしょうが、この曲のような夢か幻かという静かで明るい曲には、これ以外はない、と思えてくるほどよく合っています。
 フランス風の音色というと、同時代のパリ音楽院管が有名ですが、わたしの聴いた限りでは、パリ音楽院管はより国際性が高く、このフランス放送管の方が方言丸出しのようにフランス的音色(+協調性の無さ)が強く残っているように思いました。

 指揮者のロザンタールはラヴェルの直弟子のおそらく最後の生き残りで、作曲家や研究家としても知られている人物との事です。
 まあ、もっと驚きなのは、この人が亡くなったのはつい昨年(2003年)で、なんと99歳(−数日)だったことですが。
 また、この演奏は1957年から1959年にかけて録音された(この曲だけでなく全集として)のですが、どうやらフランスでは初めてのステレオ録音だったようです。
 そのためもあってか、録音には若干聴き難い点があります。
 この「パヴァーヌ」はそれほどでもないのですが、他の曲の一部では、音が鳴っている最中に右左に音源が移動してしまうものがあり、これはステレオ初期の録音にたまに見られる現象ですが、非常に違和感を感じます。(2004/9/11)


サイトのTopへ戻る