M.ラヴェル バレエ音楽「ダフニスとクローエ」より第2組曲

指揮フィリップ・ゴーベール
演奏コンセール・ストララム
録音1930年3月24日
カップリングラヴェル マ・メール・ロワ 他
「Maurice Ravel Orchestra Works」の一部
発売ANDANTE(Columbia)
CD番号1978


このCDを聴いた感想です。


 フランス指揮界の重鎮、ゴーベールです。
 戦前のフランスで「権威」といったらこの人というイメージがあります。ただ1940年代の初めに亡くなっているために知名度の割りに録音が少なく、そういうところは、なんだかドイツ(オーストリア)でのワインガルトナーと印象が被っています。
 この演奏は、ほとんど初めて聴いたゴーベールの演奏なのですが、まず感じたのが、縦よりもメロディーなどの横の流れが重視されていること。さらに、そのわりに意外としっかりとした硬い演奏だということでしょうか。
 テンポは、常識的なもので劇的に伸び縮みさせることもありません。わりと一定のテンポを保って進んでいきます。ただし、実際に出てくると音は実は遅れ気味です。
 これは特に夜明けやパントマイムのように遅いテンポの部分でよくわかりますが、メロディーはかなり粘って歌っていて、最初の音の出だしはもちろんのこと、途中の一つ一つの音に至るまでもったい付けたようにテンポよりもほんの一呼吸遅れて出てきます。歌い方は表情を豊かに付けるというよりも景観的な情緒を感じさせる悠然とした歌い方で、夜明けのもやもやとしたところや太陽が昇ってきたかのようなギラついた感じなどが実際に目にしているかのようにリアルに伝わってきます。
 メロディーが一呼吸ずつ遅れて出るのですから、縦の線はかなり大雑把に区切られています。一点にピタリではなく、適当に見繕ってエイヤッといった感じで多少の誤差があってもほとんど気に留めている様子はありません。
 つまり、小節や拍の頭で音を揃えるというリズムよりも、横のメロディーの流れの方がはるかに重要で、小節は横の流れの中でたまたま通過しているに過ぎず、メロディーの動きで多少前後してしまってもそれは自然である、という感覚なのでしょう。
 テンポの速い全員の踊りは、さすがに夜明けやパントマイムほど遅らせたりはしませんが、それでもまだけっこうバラつきがあります。
 この演奏にリズムの鋭さを求めてはいけません。代わりに横の流れがあるのですから。
 ただ、それだけ横の流れを重視した演奏のわりに流れ任せのフラフラした演奏にはならず、しっかりとした形は保たれています。勝手気ままに進むのではなく、ちゃんと統制が取れているのです。
 その理由は、一定に進むテンポにあります。
 メロディー自体は遅れて付いて来ていても、テンポがきちっと決まっているため、メロディーがずるずる後ろに引っ張られること無く、着実に前に進んでいるのです。
 たとえ小節の頭で誰も音が出ず、全員が一呼吸遅れて出たとしても、本来出るべきポイントはわかっているのだと思います。
 演奏者に自由に歌わせていながらも、全体はきっちりと締めているあたりが、やはりゴーベールが当時のフランスでも最も老練な指揮者、つまり「権威」たる所以なのでしょう。

 実は、この演奏を聴くときにもっとも期待していたのは、ゴーベールよりもむしろ演奏しているコンセール・ストララムの方でした。
 戦前の、しかも全盛期のコンセール・ストララム(ストララム管弦楽団)ですから、これはもういかにもフランスらしい音色に違いないだろう。どこまでも澄んだ平たい音で、ファゴット……じゃなかったバッソンもサックスかと聞き違うような音色だろう。などと思っていたのですが、残念ながらそれほどよくはわかりませんでした。
 録音が1930年と古いこともあって、聞いても、そういう気持ちで聞いていればそう聞こえるかな、ぐらいで、はっきりとわからなかったのは少し残念なところです。
 まあ、その代わりにゴーベールの上手さが聞けたので十分でした。(2006/11/25)


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