M.ラヴェル ボレロ

指揮ペドロ・デ=フレイタス=ブランコ
演奏シャンゼリゼ劇場管弦楽団
録音1953年4月28日
カップリングファリャ 恋は魔術師 他
「LES RARISSIMES DE PEDRO DE FREITAS BRANCO」の一部
発売EMI
CD番号5 86474 2


このCDを聴いた感想です。


「録音史上最も遅いボレロ」といううたい文句で有名な演奏です。
 ボレロで遅い演奏というと、チェリビダッケ(ミュンヘン・フィル)が18分10秒(拍手別)だったり、デルヴォー(ハンブルク・フィル)が18分30秒程度(これは未聴です)で、ブランコの演奏が18分36秒ですから、一番かどうかはともかく最も遅いうちの一つであることは間違いないでしょう。ちなみに、平均的なところでは15〜16分程度、おそらく最も速いうちの一つであるパレー(デトロイト響)は、たった13分24秒で駆け抜けています。
 で、ブランコの演奏ですが、たしかに、これは遅いです。
 冒頭のスネアのリズムからして、他の演奏より明らかに一段階遅く感じます。
 スピード感などまるで無く、逆に常にブレーキをかけているのではないかと思えるぐらい、じわじわと進んでいきます。
 その一方で、メロディーの歌い方はというと、これが案外あっさりしています。あまり大きな起伏をつけず、むしろ淡々言ってよいぐらいです。
 このあっさりとした歌い方というのは、実は、同じように遅いチェリビダッケにも共通しています(デルヴォーは未聴のためわかりませんが)。もっとも、チェリビダッケのリズムのしっかりとした歩みは、どうにも怪しいブランコとは大違いですが。それでも、あまり大きく歌わせないという点は、意外に似ているのです。
 想像ですが、遅いテンポの場合、あまり表情を濃くすると、聴いていてクドク感じてしまうためではないでしょうかね。
 ただ、同じあっさりした歌い方とはいえ、チェリビダッケの方は、メロディーの始まりの長い伸ばしの音から動きに入るタイミングをわずかに遅らせ気味にして多少は色気をつけています。ところが、ブランコの方は逆に前に突っ込み気味のため、あっさり風味がさらに強まっています。なまじテンポが遅いために動きによる表情も付けづらく、しかも妙にべったりとした歌い方で、歌い方だけ注目すると、言っては何ですがまるでお経を読み上げているような感じになっています。
 テンポが遅いくせに表情が薄いというと、まるで良い所無しのようですが、それを大きく覆しているのが各楽器の音色です。
 いやもう、単に伸ばしているだけなのに、こんなに存在感のある音というのは久しぶりに聴きました。
 薄い、平たい、鼻にかける強烈なビブラート、と現在なら確実にアウトになる音色で、ここまで来ると、メロディーの歌い方の表情の付ける付けないなどは大した問題ではありません。習字でいかに立派な文字で大層な内容を書こうが、文字色がピンクや金色ではどうしてもイロモノに見えるのと同じで、音色だけで聴く者を虜にしてしまいます。
 こうなってくると、遅いテンポが今度は逆に利点になります。伸ばす音がより長くなることで、聴く方はよりじっくりと音色を楽しめるわけです。
 これがフランスのローカル音色ならではということでしょうか。例えばパリ音楽院管はフランス風音色の典型と言われ、確かにその通りですが、この演奏の音色に比べるとずっとインターナショナル寄りです。
 響きもさらに輪をかけて薄く横に広がっています。スネアに加え、伴奏の頭打ちのリズムは結構強めで、低音も刻むようにしっかり入ってきていますが、響きは決してドイツ風のがっしりと安定したピラミッド型ではありません。この辺りは録音があまり良くないのも影響しているのでしょうが、強い低音は安定しているものの、その上が抜けていて、それ以外の響きは空中で薄く広がり、ヤジロベエのように、低音の上にちょこんと乗っています。
 洗練しているとはお世辞にも言えませんが、いろいろな点でインパクトのある演奏です。(2011/12/10)


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