M.ラヴェル ボレロ

指揮ピエロ・コッポラ
演奏大交響楽団
録音1930年1月13日
カップリングM.ラヴェル クープランの墓 他
「MAURICE RAVEL ORCHESTRAL WORKS」の一部
発売ANDANTE(HMV)
CD番号1978


このCDを聴いた感想です。


 指揮者の名前はコッポラ。
 コッポラというと、コッポラコッポラコッポラ……「穴骨洞」。……まず思い浮かぶのが『ゴッドファーザー』や『地獄の黙示録』などで知られる映画監督のF.F.コッポラですね。もちろんピエロ・コッポラとは全くの別人ですが、F.F.コッポラは父親がNBC交響楽団のフルート奏者だったそうで、実はクラシックともそう縁が無いわけではありません。まあ、さすがに親戚ということは無いとは思いますが。
 F.F.コッポラに較べてだいぶ知名度の落ちるピエロ・コッポラですが、戦前のフランスではトップグループとまでは行かなくても二番手ぐらいには入る中堅指揮者で、録音もそれなりに残っています。
 このボレロもその中の一つですが、実は資料的な価値としては結構重要で、なんでも自演盤を抜いてボレロの最初の録音だそうです。
 さて、肝心の演奏内容ですが、よくも悪くもフランス的ですね。
 伴奏は、同じリズムをひたすら繰り返しているだけですから機械のように一定のはずなのに、まるでゴム製かと思えてくるほど大きく伸び縮みします。メロディーにあわせて前に突っ込んだり、かと思うとメロディーが歌い込んでいるために次のリズムに入れなくて、間を一瞬空けたりと一定は3小節と続きません。
 ただ、技術が無くて一定のリズムがとれないのではなく、メロディーの都合によってリズムを動かされているので、伴奏はむしろ良くやっているほうだと思います。とはいえ、他のドイツや英米系のきっちりと一定のテンポで進む演奏に慣れてしまうと、どうにも不安定です。正確さよりもエイヤッとフィーリングで合わせた演奏のようで、細かいところまでは気にせず大雑把に合わせただけに聞こえてしまいます。
 もっとも、伴奏のリズムはまだ一定に近い方でしょう。メロディーはさらに自由奔放です。
 メロディーには、冒頭から登場する明るい長調系のメロディーと、交代で登場する哀愁を帯びた短調系のメロディーがありますが、長調系のメロディーはそれほど大きくはテンポを逸脱しません。むしろテンポを保つことを意識においてじっくり歌ったという歌い方で、初めの弱いピアノの時は穏やかに、次第に強さが増してくるにつれて力強くなってきますが、基本的に健康的にのびのびと歌っています。
 一方、短調系の方はやりたい放題です。
 伴奏のテンポが揺らぐほとんどの原因はこちらで、音の出だしをもったいつけて一瞬遅く出たり、歌いに歌ってテンポを引っ張ったりは当たり前で、しかもソロの場合だけなら、ソリストの感性としてまだわかるのですが、後半のオーケストラ全体になってもほとんど変わりません。メロディーの途中に、単に8分音符が三つ並ぶだけのような音型が出てくると、突如、その三つの音にアクセントをつけて強調し、しかもテヌートついでにテンポまで遅くするなど、さらにオーバーしているところまであるくらいです。長調系が健康的で、まだ規則を守ろうという意思が感じられるのに対して、短調系の方は、不健康というか、かなりアナーキーの方に傾いています。
 これのトドメはやはりトロンボーンです。
 他の演奏でも、トロンボーンは楽器の特性を生かしてポルタメントを入れたりなど、最も目立つ場合が多いのですが、この演奏も例に漏れません。
 ポルタメント入れるのはもちろんのこと、そのポルタメント、二つどころか三つの音にまたがって登場し、間の音符が端折られています。例えば「ミレドー」という音型は「ミ〜ドー」とポルタメントでつないで間が省略されています。しかも、この動きをテンポどおりではなく、前に詰めてあっさりと流しているところが、よくもわるくも力が抜けていて、妙に気だるさを漂わせています。細かい動きを大胆にカットしたこのポルタメントには、思い切った表現をするものだなあ、と半ばあきれながら聴いてしまいました。
 ちなみに、この録音とほぼ同じ時期にラヴェル本人がコンセール・ラムルーを指揮した演奏があり、そちらのトロンボーン・ソロも、歌い方は結構似ています。オーケストラは別なのに歌い方が似ているのは、当時のフランスではそういう歌い方が主流だったためでしょうか。もう一つの可能性として、このコッポラの録音には実はラヴェル本人が立ち会っているそうなので、そのため歌い方が共通したのかもしれません。しかし、そうするとこの大胆な歌い方が実はラヴェル本人の希望ということになります(実際、作曲者本人の演奏ではそうさせているわけですし)。もし、そうだとしたら……かなり驚きです。(2007/5/26)


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