M.ムソルグスキー 組曲「展覧会の絵」

ラヴェル編曲

指揮ズービン・メータ
演奏ロサンジェルス・フィルハーモニック管弦楽団
録音1967年4月
カップリングムソルグスキー 組曲「展覧会の絵」(ピアノ版)
発売DECCA
CD番号467 127-2


このCDを聴いた感想です。


 このCDは、ほとんど「ビドロ」を聞くためだけに買ったようなものです。
 その「ビドロ」の中でもただ一箇所、最も盛り上がるフォルティッシシモの直前の数小節間に登場するティンパニー、これを聞きたかったのです。
 このティンパニーは、同じ音を各小節の裏拍という全く同じ一定の間隔で叩かれていて(正確には音の長さは四分音符と八分音符が交互に登場する)、曲の盛り上がりに合わせてメゾ・フォルテからフォルティッシシモにクレッシェンドしていくだけの単純な動きです。
 メータは、このティンパニーを硬く強めに叩かせています。他の楽器がメゾ・フォルテでもティンパニーだけは登場した瞬間からフォルテぐらい強く、明らかに浮かび上がらせています。
 このクッキリと浮き出たティンパニーが印象的なのです。
 機械のような一定の間隔が非常に無慈悲な雰囲気で、まるで人にはどうにもできない運命かなにかを表しているように聞こえました。
 実は、CDとして買ったのは最近ですが、20数年ほど前、まだ子供の頃に聴いたことがありました。当時はまだCDではなくLPでしたが、このティンパニーの硬く強い音はその時からずっと印象に残っています。その時にティンパニーと同じリズムで、スピーカーの正面にあった窓ガラスがビリビリと音を立てて震えていたことも思い出します。たしかに音というのは波なんだな、と初めて実感したのもこの時でした。
 当時は、わたしはこの演奏しか聴いたことが無く、ビドロのティンパニーというのはそれぐらい強く出すのが一般的だと思っていました。
 後に、CDでいろいろな演奏を聴くことができるようになったわけですが、どの演奏を聴いてもティンパニーがそこまで強く出ている演奏はなく、それどころかほとんど聞こえない演奏も多く、どうにも不満でした。最も満足に近い演奏はジュリーニ/シカゴ響でしたが、それでも少し弱く、フェドセーエフ/モスクワ放送響は、その部分のパーカッションが強いという点ではメータにも決して引けをとりませんが、強いのはティンパニーではなくティンパニーと入れ違いに表拍に登場するバス・ドラム(大太鼓)の方なのです。圧倒的な力を表しているコンセプトはおそらくメータと同じだと思いますが、わたしは表拍のバス・ドラムではなく裏拍のティンパニーが強い方が、より焦燥感があって良いのではないかと思いました。
 いろいろ聞いてもどうもはかばかしくなかったため、ついに同じ演奏のCDを買ってきて、やっと満足できたというわけなのです。このCDはそれほど希少というほどでもないと思いますが、なぜかなかなか手に入れることができませんでした。

 ちなみにビドロ以外の部分ですが、常に「鮮やかさ」を感じました。
 この「鮮やか」というのは、手際が良いという意味ではなく、色褪せてなく新鮮に近いという意味です。
 スパッと鋭利な刃物で切ったばっかりの断面ように音色がクッキリと鮮やかなのです。
 華やかといえば華やかなんですが、フランス系のようにそれぞれの楽器音色の個性が出ているというのとは少し違い、全体が響きがはっきりとしています。アメリカのオーケストラらしいと言えるかもしれません。
 メロディーがリズムがというより、響きのキレが良いのです。
 整然と揃った透明感のある響きではなく、細部では少し粗があり、濁りも出ていますが、生き生きとしています。
 さらに、個別の楽器では、トランペットとサクソフォンが印象に残りました。
 トランペットのカタコンベ辺りでの強くビブラートをかけた音色は、ちょっと浮いているかなとも思いましたが、強く感情が表れています。
 サクソフォンは、古城だけですが、こちらもビブラートを強くかけた音色で表情豊かです。なによりメロディーの歌い方がすばらしく、少し遅らせ気味でじっくりと歌い込み、深さを出しています。

 メータの「展覧会の絵」はこれ一種類ではなく、後にニューヨーク・フィルと再録音しています。
 そちらは聴いたことがなく、今まで意識的に避けてきました。
 なにしろこのロス・フィルとの演奏を神棚に載せてしまったため、再録音を聞いてしまうと、なんだかイメージが壊れてしまいそうで怖かったのです。
 今回、ロス・フィルとの演奏を改めて聴いて、幸い記憶の中でそれほど美化されていなかったのが確認できたので、そのうち買ってみようかな、と考えています。(2006/10/14)


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