M.ムソルグスキー 組曲「展覧会の絵」

ラヴェル編曲

指揮セルゲイ・クーセヴィツキー
演奏ボストン交響楽団
録音1930年10月28〜30日
カップリングストラヴィンスキー バレエ音楽「ペトルーシュカ」 他
発売Pearl(Victor)
CD番号GEMM CD 9020


このCDを聴いた感想です。


 皆さんもご存知かと思いますが、この演奏を指揮しているクーセヴィツキーこそ、ラヴェルにムソルグスキーのピアノ曲だった「展覧会の絵」のオーケストラ編曲を依頼した人物です。
 初演が1922年で、それからの5年間は依頼したクーセヴィツキーに独占的な演奏権があり、他の指揮者はラヴェル版を演奏する事ができなかったそうです。
 この録音は1930年ですから、既に演奏権は切れているはずですが、それ以前に、誰か他の指揮者が録音したという話も聞きませんし、おそらくこの演奏が、展覧会の絵の編曲の中で最も成功したラヴェル版の史上初めての録音でしょう。
 それと同時に、当然の事ながら初演者の演奏でもあるのですが、この演奏を聞く限りではそういう印象をほとんど受けません。
 どういう事かと言いますと、演奏に余裕があり、今風でもあるのです。
 余裕があるというのは、初演から8年ぐらいでは、未だにおっかなびっくりに演奏していたり迷ったりしている雰囲気がどこかしらに感じる事が少なくないのですが、この演奏には、もう何十年もスタンダードな曲目として演奏していたみたいに各奏者が押さえ所がわかっていて、戸惑いがありません。おそらく初演してすぐに人気のレパートリーとなり、何度となく演奏したのでしょう。
 今風というのは、これも同じ要因によるのでしょうが、現代の演奏と較べても、テンポや音の長さ、メロディーの歌わせ方にほとんど違いがありません。
 いや、現代のスタイルがクーセヴィツキーの頃に既に完成されていて変える必要が無かった、というべきなのかもしれません。録音の古さを除けば、ほぼ現代でも一般的な演奏として通用しそうです。
 ただ、録音の技術的な問題から録音時間に制約があったのか、ビドロやカタコンブといったテンポが遅い曲目は、だいぶテンポが速くなっています。さらに古城では、テンポ自体は速いというほどでもないのですが、テンポを上げなかった代償なのか、途中で40小節近くもカットしています。せっかくラヴェルに依頼した張本人なのに、自らがカットしてどうするんだ、という気もするのですが、しょうがなかったのでしょう。さすがにこのカットは、他の指揮者で同じ事をしている人は今まで見かけた事がありません。
 また、上記に「現代と変わらない」演奏と書きましたが、実は、一箇所だけ、演奏の仕方が現代と大きく異なる部分があります。
 それは、ビドロの中ほどで最高に盛り上がってf(フォルテ)三つになる直前の部分のヴァイオリンのメロディーの歌わせ方です。
ビドロの譜面です  現代では、楽譜(1)のように、前の部分からの流れのまま、記譜通り、「タータラ、ターター、ターター、ターーー、タンター、タータタ、」(『、』は小節の区切りだと考えてください)と演奏する場合がほとんどなのです。
 ところが、クーセヴィツキーは、楽譜(2)のように、「タータラ、ターター、ターラン、タンーーー、タ タ 、タ タタ、」と、かなり異なるアーティキュレーションで歌わせています。
 現代のラヴェル版の演奏では、およそ見かけないような歌わせ方なのですが、たった一つだけ同じ歌わせ方をしている他の演奏があります。
 それはオーマンディとフィラデルフィア管の演奏なのですが、録音は1937年で、なにより、実はその演奏はラヴェル版ではないのです。
 当時のフィラデルフィア管の団員だったカイエという人物による編曲で、それというのもラヴェル版の演奏権をクーセヴィツキーが握っていて使えなかったためらしいのですが、当然の事ながらラヴェル版とは少なからぬ違いがあります。
 しかし、このビドロの歌わせ方だけは同じで、しかもラヴェルの譜面とは異なっているというのはなかなか面白いところです。
 当時、ピアノ版でそういう演奏が流行っていたのか、それともオーマンディがクーセヴィツキーの演奏を参考にしたのか、もしくは、カイエがクーセヴィツキーの歌わせ方に合わせて編曲してしまったのか、想像するだけで楽しくなってきます。
 このカイエ版は、また別の機会に単独で取り上げようと思っています。(2003/5/31)


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