M.ムソルグスキー 『リャドの夢』〜「ソローチンツィの定期市」より〜

(交響詩「はげ山の一夜」)

指揮ヴァレリー・ポリャンスキー
出演テナー(リャド)   :ヴィクトル・オブノソフ
バス(チェルノボグ):ティグラム・マルティロシャン
演奏ロシア国立シンフォニック・カペラ
録音1994年
カップリングムソルグスキー 組曲「展覧会の絵」 他
発売CHANDOS
CD番号CHAN 9497


このCDを聴いた感想です。


 この曲は『リャドの夢』というタイトルがついていますが、要するに、いわゆる「はげ山の一夜」です。ただし、一頃アバドが録音して話題になった、ソロと合唱が入る版での演奏なのです。
 この、合唱が入った「はげ山の一夜」ですが、内容は、普通の管弦楽版の解説にあるようなストーリーがそのまま歌として入っていると考えて頂ければ間違いありません。
 具体的なストーリーは以下の通りです。

 一人の若者(実は、この若者の名前が『リャド』なのですが)が、旅の途中で夜になり、ある丘の麓で眠る。
 若者が眠っていると、魔女と悪魔達が現れて、眠ったままの若者を取り囲む。
 魔女と悪魔は、若者を話の肴に騒いでいたが、しばらくして、魔界の王、チェルノボグを呼び出す。
 チェルノボグを中心として、宴が始まる。
 宴が最高潮に達したところで朝が来て、遠くから聖職者達の合唱が聞こえてくる。
 やがて、悪魔達は散り散りに消えてしまう。
 眠りから覚めた若者は、辺りを見回す。

 ストーリー自体は、日本の昔話にもありそうな、それほど変わった話でも無いのですが、この魔女や悪魔達の合唱の歌詞が強烈です。
 アバドの国内盤の方に日本語訳が掲載されているのですが、歌詞の訳のうち半分は、セリフの音をそのままカタカナにしただけなのです。
 そして、最後に注釈として『カタカナの言葉は意味不明の悪魔語』と言い切ってます。
 あ、あの……悪魔語って…一体?(笑)
 実際のところ、わたしが見る限りでは、その『悪魔語』の中で半分くらいは、悪魔の名前のようですが。

 まあ『悪魔語』はともかくとして、合唱が入ると、一般的な管弦楽版と較べて、おどろおどろしさは一気に跳ね上がります。
 冒頭の、切迫したヴァイオリンの速いパッセージ(これは管弦楽版と同じです)の直後、中低弦の不気味なリズムと共に合唱が悪魔語を囁きながら入ってくるところは、かなり恐怖感があります。
 子供に聞かせたら、泣き出してしまうかもしれません。
 ………と、ここまではいいのですが、なぜか曲が進むにつれて、だんだん恐怖感が薄れて、逆にギャグのように笑えて来るのです。
 別に、曲の雰囲気は最初と変わらないのですが、聴いていると、どんどん怖くなくなるのです。
 そう感じるのはわたしだけかもしれませんが、どうやら、あまりに曲が仰々しすぎて、恐怖を通り越して、ギャグに思えたようです。
 これは、たぶん演奏のせいではないと思います。この版のほかの演奏を聴いても同じ印象を受けましたから。
 また、必要以上におどろおどろしいこの曲ですが、その中で、最後の方に入る聖職者の合唱が意外と良い味を出しています。
 なにせ、他が全て悪魔系で、より無秩序な方へ行きたがるのに、この聖職者の合唱だけは 秩序の象徴として清らかで、しかも遠くの方から聞こえてくるために生々しさが薄くなり、まるで一服の清涼剤のような清々しさがあります。

 世の中に「はげ山の一夜」の演奏は数え切れないほどありますが、この演奏のように合唱版を使った演奏というのは、ほとんど見かけません。
 わたしが知っている限りでは、この演奏と、最初に挙げたアバドとベルリン・フィルとの演奏の他には、ロジェストヴェンスキーがBBC響を指揮したライブの、計3種類があるだけです。
 この3種類の中で、ロジェストヴェンスキーの演奏は英語によるもので、このポリャンスキー盤とアバド盤はロシア語での演奏なのですが、ポリャンスキー盤とロジェストヴェンスキー盤の歌詞には、アバド盤には無いちょっとした特徴があります。
 実は、この二枚には、若者である『リャド』のセリフがあるのです。
 といっても、最後の最後にちょこっと一言あるだけなのですが、最後だけに、曲の印象を少し変えていて、より爽やかな雰囲気になっています。

 ところで、演奏している『ロシア国立シンフォニック・カペラ』という団体ですが、ご存知の方もいらっしゃると思いますが、早い話が旧『ソヴィエト国立文化省交響楽団』の事なのです。
 もともとロジェストヴェンスキーをソヴィエト国内に引き止めるために設立された同団ですが、実は、ポリャンスキーもソヴィエト国立文化省室内合唱団の指揮者として、当時から係わり合いがありました。
 その後、ソヴィエト崩壊に伴い、ロジェストヴェンスキーも国外に出てしまい、文化省も消えてしまったため、オーケストラも解散の危機に陥りましたが、ポリャンスキーが指揮者を引き受け、団体名称もロシア国立シンフォニック・カペラと変え、なんとか存続することができたという訳なのです。
 ただ、さっきから使っている『ロシア国立シンフォニック・カペラ』という名称ですが、本当は正しくないのかもしれません。
 正式には『ロシア国立交響楽団』が正しい名称で、『ロシア国立シンフォニック・カペラ』という団体名は、実際には合唱団の方の名称かもしれません。
 ただ、ロシア国立交響楽団というと、スヴェトラーノフが指揮者の旧ソヴィエト国立交響楽団と同じ名称になってしまうので(英語表記上は、旧ソヴィエト国立響が『The state Symphony Orchestra of Russia』で、旧文化省響が『Russian State Symophony Orchestra』なので、区別できます)、便宜上、ロシア国立シンフォニック・カペラと呼んでおきます。
 また、これ以外にも『モスクワ・シンフォニック・カペレ』という呼び方もあるみたいです。

 で、旧ソヴィエト国立文化省交響楽団時代と、現在のロシア国立シンフォニック・カペラ時代の違いですが、わたしが聴いた感じでは、技術的にも昔と較べてそう遜色ないのではないでしょうか。
 いや、むしろ纏まりや安定感といった点では、文化省響時代よりも、現在の方がよっぽど優れていると思います。
 ただ、その反面、文化省響時代にはあった(正確にはロジェストヴェンスキーの指揮の下ではあった(笑))、突き抜けるような金属的かつ暴力的な響きが無くなってしまったようで、個人的にはちょっと残念です。
 とはいえ、わたしがこのオーケストラを好きなことには変わりは無いので、これからもちょくちょく買おうと思っています(笑)(2002/5/3)


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