M.I.グリンカ 歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲

指揮アルトゥール・ロジンスキー
演奏ロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団
録音1958年4〜5月
カップリングファリャ 恋は魔術師より 他
「Artur Rodzinski artist profile」の一部
発売EMI
CD番号7243 5 68742 2 0


このCDを聴いた感想です。


 ロジンスキーの指揮で、しかも「ルスランとリュドミラ」序曲とくれば、聴く前は、きっとムラヴィンスキーに代表されるような超快速で飛ばした演奏に違いないと予想していました。ところが実際に聴いてみると、これが意外とじっくりとまとめた演奏なのです。勢いを重視した豪快な演奏とは丸っきり反対で、がっちり締め込み、隅から隅まで完全にコントロールの下においています。ガチガチに締めた演奏というと、ムラヴィンスキーの演奏も同じ傾向と言えばそうなのですが、ムラヴィンスキーの方は、テンポは超特急で、勢いも大きく重視しているのに較べ、ロジンスキーは、むしろ逆にテンポは落ち着いていて、その代わり、全ての音を刻み付けるようにしっかり重みを乗せて演奏しています。
 ただ、テンポが遅めといっても、一つ一つの音は、弛みがなく、鋭さとスピード感があるため、音楽の流れは停滞せず、一歩ずつ着実に前に進んでいきます。ちょうど子供が国語の教科書を朗読しているみたいにハキハキとしていて、聴いていてとても気持ち良いものです。
 しかも、それだけ切っていると、今度は逆に音と音とのつながりが無くなってしまいそうなものですが、そんなことはなく、ちゃんと横の流れもあります。そう感じられる大きな要因は、メロディーの歌い方にあるのではないかと思います。
 なんというか、フレーズの始まりから終わりまでの道筋が明確に目に浮かんでくるのです。
 例えば、冒頭の管楽器がフォルテで鳴らす部分が3パターン続いた後、弦楽器だけのユニゾンで八分音符が長々と連続する部分があります。ここは、弦楽器の最初の見せ場ですから、他の演奏では、ここぞとばかりに勢い良く豪快に駆け上っていったり、逆に、こんなものは何でもないよとばかりに、軽快に舞い上がっていくなど、どちらかというとテクニックの方に目が行きがちです。
 しかし、ロジンスキーの場合、たしかに音がスタッカートで良く揃っているなど、テクニックで感心する面はあるものの、それ以上に、最初の音から最後の音に至るまでのストーリーが目を引きます。
 最初の音の強さがこれぐらいで最後の小節の音がこれぐらいであれば、中間の山場はもっと強くなる。その間のつなぎは、一律にクレッシェンドするのではなく、音楽の流れに合わせて微妙にクレッシェンドとデクレッシェンドを繰り返し、全体としては段階的にクレッシェンドして山場に至り、そこから下がるメロディーは、上がる時の音の動きの逆とは少し異なるため、今度はそれに合った歌い方をしながら、次第に下がって行き、最後の小節でちょうど良い強さに持ってくる、この流れがまさにストーリーになっているのです。
 特に、一連のフレーズで、いろいろ歌って、ちょうど歌い終えた瞬間に最後の音になるというこのちょうど良さは、まさに緻密な計算がピタリと合ったという感じで、非常に感心しました。
 逆に、あまりにもちょうど良すぎて、フレーズの最後で完全に満足してしまい、フレーズとフレーズのつなぎに関しては多少悪く感じるほどです。
 まあ、そうはいっても、テンポが揺れるわけではありませんし、すぐにつぎのフレーズが始まるわけですから、流れは停滞せず、ちゃんと前に進んでゆきます。
 この演奏に、勢いや豪快さを求めるとちょっと物足りないかもしれません。しかし、音は筋肉質でよく締まり、歌い方まで綿密にコントロールされた演奏というのもなかなか面白いのではないでしょうか。(2010/7/17)


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