M.I.グリンカ 歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲

指揮ロリン・マゼール
演奏イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団
録音1962年3月
カップリングR=コルサコフ 「金鶏」組曲 他
発売ポリグラム(DECCA)
CD番号POCL-4549(460 873-2)


このCDを聴いた感想です。


「ルスランとリュドミュラ」序曲を聴く時には、『勢い』という要素も、演奏を判断する重要な基準になりますが、この演奏は、その基準を十分過ぎるほどにクリアした演奏です。
 勢いが感じられる演奏というと、最もよく知られているのはムラヴィンスキーの演奏ですが、たしかに傾向としてはよく似ています。
 ただ、ムラヴィンスキーの演奏と較べると、アンサンブルの緻密さという点では、ライブという不利な条件にもかかわらず、ムラヴィンスキーの演奏の方がしっかりしています。マゼールの方は、スタジオ録音という点で有利な筈ですし、オーケストラもイスラエル・フィルなのですから、決して下手ではない……どころではなく、かなりレベルの高いオーケストラなのですが、細かくて速いパッセージの部分では、若干乱れが出てしまっています。
 さらに、もっとも異なるのが響きの方向性です。
 ムラヴィンスキーの演奏が、勢いがあっても、響きはあくまでも内側に引き締められていて、そこにエネルギーを凝縮させて響きの密度を濃くしているのに対して、マゼールの響きは、外側に向けた開放的なものです。
 もちろん、凝縮されている方が良いわけでも、開放的な方が良いわけでもなく、単純に目指す方向が異なるだけで、どちらが上でもありません。
 マゼールの演奏は、凄まじいまでの勢いのまま、外側に向かってエネルギーを発しているだけに、その印象は強烈です。
 その響きといったら、まるで灼熱の太陽かマグネシウムかと言いたくなるぐらい、ギラギラとした輝きがあり、容赦無く聴く者を照らしつけます。
 もう、音の一つ一つが、「俺の音を聴いてくれっっ!!」とアピールしているかのようで、その濃さには聴いていて圧倒される思いです。
 やはり、これだけの勢いを出せたのは、良くも悪くもマゼールがまだ若かったからかもしれません。
 基本的なテンポが速いのは当然としても、最後のPiu mossoでの更なるテンポアップというのは、ムラヴィンスキーですらやらなかった事で、『無茶をするのが若さの特権!』という諺(?)がピッタリ当てはまるような突き抜け振りです(笑)
 ところで、この演奏が収録されているCDには、「ルスランとリュドミュラ」序曲が、もう一種類収録されています。
 しかも指揮は同じくマゼールですが、オーケストラの方はクリーブランド管に変り、一番重要な違いは録音時期で、当録音より13年後の1975年の録音です。
 よく、マゼールは1972年にクリーブランド管の音楽監督に就任した頃から音楽性がガラリと変った、と言われますが、この1975年の演奏は、そういう傾向が如実に表れていて、アンサンブルもよく揃っていて響きが充実した良い演奏ではあるのですが、1962年の演奏の時には嫌というほど感じられたギラギラした輝きが無くなり、ずいぶん大人しくなってしまいました。
 もともとこのCDは、1975年の演奏の方がメインで、1962年の演奏はボーナストラックに過ぎないのですが、個人的には、1962年の演奏の印象があまりにも強烈過ぎて1975年の演奏が霞んでしまい、まるで懐石料理の横でカレーを食べられてしまっために懐石料理の味がわからなくなってしまうかのように、カップリングとしては、ちょっと取り合わせが悪いのではと思いました(笑)(2002/12/20)


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