M.I.グリンカ 歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲

指揮イーゴル・マルケヴィッチ
演奏ラムルー管弦楽団
録音1960年
カップリングハチャトゥリャン バレエ「ガイーヌ」 他
発売ユニバーサル(Grammophon)
CD番号POCG-91032(463 412-2)


このCDを聴いた感想です。


 以前、同じ曲のムラヴィンスキーの演奏の感想を書いた時に、ムラヴィンスキーの演奏にパワーやスピードで対抗する事は、非常に難しいのでいっそ別の方向に重点を置いた方が良いではないのか、という旨書きましたが、このマルケヴィッチの演奏は、丁度その傾向に沿った特色が良く出ています。
 例えば、ちょっと冒頭を聴き比べてみると、その差がわかります。
 ムラヴィンスキーの演奏が、よく知られている通り、とんでもないハイスピードで聴く者を圧倒するのに較べて、マルケヴィッチの演奏では、全く速くありません。いや、むしろ、それほど極端ではないにしても、他の指揮者の演奏と較べてもより遅い方の部類に入ると思います。
 さらに、ムラヴィンスキーの方は、これでもかとばかりにアクロバティックなテクニックを見せつけるのに対して、この演奏では、テンポが遅いため、凄いテクニックのようには全く聞こえませんが、がっちりとまとまったアンサンブル、そして何より重厚なサウンドで聴く者を唸らせます。
 さらに特長が表れるのが、中間部の多少ゆったりとしたメロディーが出てくる部分です。
 マルケヴィッチは、テンポが遅い点を最大限に生かして、メロディーを非常に大らかにかつ伸びやかに歌わせています。
 中でもチェロがメロディーを歌う部分では、ビブラートをたっぷり利かせることで、メロディーのスケールがどんどん大きくなり、ムラヴィンスキーの速いテンポで畳み掛ける迫力とはまた異なる、目の前に立ちはだかる巨大な壁のような迫力がそこにはあります。

 また、全体的にテンポを遅くすると、緊張感が薄くなり、弛緩してだらけた雰囲気になってしまうことがよくあるのですが、この演奏からはそういう雰囲気が微塵も感じられません。
 もちろん、曲の頭から最後まで演奏者が全力投球しているという理由もあるのですが、マルケヴィッチの指示もよく考えられています。
 例えば、ゆったりとしたメロディーなんかは先ほど書いた通り、ビブラートをたくさんかけてレガートで歌われるのですが、それ以外の伴奏やスタッカート気味のメロディーは、響きを失わないギリギリまで短く刈り込んであります。音を短くする事で余計な重さを無くし、音楽にキレを持たせています。
 また、要所要所での一発、特にティンパニーを強調する事で、音楽にメリハリをつけ、ズルズルと流れて行かないよう、きっちりと引き締めてもいるのです。

 わたしは、ムラヴィンスキー型の息もつかせぬハイスピードで圧倒する演奏も好きなのですが、この演奏のように、重厚さで聴かせたり、メロディーの歌で聴かせるような演奏も、これからはもっと増えて欲しいと思います。(2002/8/30)


サイトのTopへ戻る