M.I.グリンカ 歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲

指揮アルバート・コーツ
演奏ロンドン交響楽団
録音1928年10月7日
カップリングボロディン 交響詩「中央アジアの草原にて」 他
「Albert Coates Conducts Vol.1」より
発売KOCH
CD番号3-7700-2 H1


このCDを聴いた感想です。


「こ、これは、もしかしてムラヴィンスキーの演奏では……」

 これが、この演奏を聴いた時のわたしの第一印象です。
 いやもう、以前書いたムラヴィンスキーの演奏と同じくらいの突進力があります。
 しかも、テンポはムラヴィンスキーより速いのですから驚きました。
 このコーツの演奏は、途中で35小節ほどカットがあるので正確には較べられないのですが、ムラヴィンスキーが実質4分39秒(CD表記上は4分55秒ですが拍手も含まれているため)なのに対して、この演奏は4分ジャストしかかかっていません。
 また、ムラヴィンスキーはコーツがカットしている35小節間の演奏に28秒ほどかかっているため、その分を差し引いても、まだ11秒もコーツの方が速いことになります。
 ただしこれだけ速いと、曲の頭の方の突っ走っていく部分は非常に格好良いのですが、中間のちょっとゆったりとしたメロディーの部分は、さすがに前に突っ込みすぎのようです。
 ちょっと慌しさがあり、メロディも今一つ歌いきれていないような気がします。しかし、歯止めが効かずにどんどん走っていきそうな危なっかしさはありません。

 冒頭に、まるでムラヴィンスキーの演奏のような印象を受けたと書きましたが、この演奏がただ速いだけなら、わたしもムラヴィンスキーの演奏のようだとは思わなかったでしょう。
 この演奏の凄さは、それこそムラヴィンスキーとレニングラード・フィルを髣髴させるかのようなきっちりと揃ったアンサンブルにあります。
 いや、正直言いまして、1920年代のロンドン響の合奏能力を侮っていました。
 これが、例えばレニングラード・フィルとか、ベルリン・フィルとか(一応、コンセルトヘボウ管も(笑))言われれば、聴く方としても「合奏力も聴き所の一つ」という心構えがあるのですが、後年のロンドン響ならともかく、この時代ではまだそんなにアンサンブルは整っていないだろうと、たいして期待しないで聴いていただけに、このアンサンブルは衝撃的でした。
 1920年代の録音なので、もちろん音はあまり良くなく、フォルテの時の低音とかが埋もれてしまっていたりもするのですが、少なくともヴァイオリン等の高弦は音の粒が綺麗に分かれて聞こえ、ピッタリと揃っています。
 しかも、速いパッセージの音は一つ一つの音をスタッカートにして短く切り、なおかつエネルギーに満ち溢れているところが、さらにムラヴィンスキーにそっくりです。
 ……しかし、よく考えたら「ムラヴィンスキーそっくり」という発想は適当ではありませんね。
 たまたま、わたしがムラヴィンスキーの演奏の方を先に聴いただけで、録音自体はこのコーツの演奏の方がずっと古いのですから。
 そうすると、実はムラヴィンスキーはこのコーツの演奏をどこかで聴いて、何らかのヒントを得た可能性も無くは無い………さすがに無理か(笑)

 上記にも少し書きましたが、この演奏は1920年代の録音ですので、基本的に音は良くありません。
 実を言えば、1920年代にしてはかなり鮮明な方だとは思うのですが、あくまでも「1920年代にしては」の話であり、せっかくの揃ったアンサンブルもフォルテでは管楽器に隠されてしまいます。
 できれば、今後リマスターが良くなって今以上に鮮明になれば、もっとアンサンブルの細部までわかると思うのですが、もしかして鮮明になると、意外と粗が見えてきてガックリという事も有り得ない話ではありません。そう思うと、鮮明になって欲しいような欲しくないような……(今考えたからってどうこうなるような話ではありませんが(笑))

 さて、指揮者のコーツについてちょっと。
 わたしはコーツという名前は知っていましたが、この演奏を聴いて初めて興味を持ちました。
 で、プロフィールなんぞを見てみたのですが………コーツってメンゲルベルクより10歳以上も若かったんですね!
 どうも、『古い古い』というイメージが頭にあったので、わたしはコーツのことを、トスカニーニやワインガルトナーと同じ世代か、場合によってはカール・ムックと同じくらいかと思っていました。
 ……とんでもない大間違いでした(汗)
 ちなみに、亡くなったのは1953年ですから、要するにフルトヴェングラーとほぼ同世代になります。
 しかも資料をあたってみると、実は録音の方も、同世代の他の指揮者達に負けないくらい多くの量を残しているらしいのですが、現在ではどうやらほとんどの録音がお蔵入りのようです。
 うーん……このルスランとリュドミュラを聴く限りでは、他の演奏も結構期待できそうなだけに、少し残念です。(2002/1/25)


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