M.クレメンティ 交響曲第3番 ト長調 <大国民交響曲>

指揮クラウディオ・シモーネ
演奏フィルハーモニア管弦楽団
録音1978年1月
カップリングクレメンティ 交響曲第1番 他
クレメンティ交響曲全集の一部
発売ワーナー(ERATO)
CD番号WPCC-5586〜7(4509-92191-2)


このCDを聴いた感想です。


 クレメンティというと、ピアノを習ったことのある人にとっては、練習曲の作曲家として曲共々よく知られていると聞いています。しかし、わたしのようなピアノと全く縁が無かった者にとっては、ほとんど馴染みがありません。クレメンティといって思い浮かぶのは、せいぜい、モーツァルトとピアノ対決をして、モーツァルトから酷評されたという可哀想なエピソードぐらいなものです。
 このエピソードにしろピアノがらみのものですから、ピアノを習った事もない私からしても練習曲などのピアノ曲の作曲家というイメージがありました。それだけに、この交響曲のCDを目にした時は少し驚きました。え? クレメンティって管弦楽曲も作曲していたんだ、と。
 驚きついでに購入し、運良く日本語解説が付いていたので読んでみて、またまた驚きました。いや、驚いたというより発見して新しいことを知ったという方が近いかもしれません。クレメンティの交響曲は小規模な作品18番(2つの交響曲)を別にすれば全4曲とされていますが、実は、ほぼ完全な形で現存していたのは第4番だけで、他の3曲は、クレーターみたいに大きく抜けた部分があちこちにあり、それを音楽学者のピエトロ・スパーダが、残されていた断片を丹念に組みなおし、場合によっては足りない部分は自ら作曲して補うなどの苦心を重ねて修復したものなのだそうです。おそらく、古典派の曲なので展開がある程度決まっているため、可能だったのでしょう。この第3番の第1楽章なんかは、序奏部は無いわ、呈示部も無し、展開部も途中までスッパリと抜けていたそうです。現存していたのは、なんと復元後での第141小節以降からのみで、よくまあその状態から曲として成り立つところまで持って行けたものです。その労力だけでも感嘆します。
 オリジナルが失われているため原曲とは比較はできませんが、少なくとも聞いていて変に感じるところは無いのですから、おそらく上手く復元できたのでしょう。
 ところで、4曲の交響曲の中で、この第3交響曲だけ<大国民交響曲>という大仰な副題が付いています。
 これは何かというと、第2〜4楽章に、イギリス国歌である「God save the King」のメロディーが使われているためです。
 クレメンティは、生まれはイタリアですが、子供の頃にイングランドの貴族に才能を見出されて以降イングランドに移り住み、ロンドンを活動の拠点としてきました。そのため、馴染みのあるこのメロディーを主題として取り入れたのでしょう。
 イギリス国歌のメロディーを主題にした曲というと、アイヴズの「アメリカの主題による変奏曲」がありますが、アイヴズの方は装飾がいろいろ付いたり伴奏が大きく変わったりするもののメロディー自体の形は保っているのに対して、この曲は、途中まで「God save the King」なのに、途中からだんだん外れていくという、メロディーを少しずつ変形したパターンが多く登場します。
 その典型が変奏曲形式の第2楽章です。「God save the King」のメロディーが出てきたぞ、と思っていると、最後の音が微妙に違ったり、メロディー通りなら高い音に上がっていくべきはずなのに、逆に下がってみたりなど少しずつ変化しています。なまじよく知っているメロディーだけに、聞いていると、ひどい例ですが一部のロゴを少し変えた偽ブランド品を見ているようで、欲求不満が溜まっていくというか、なんだかひどく不安定な気分になってきます。
 この欲求不満を溜めておいたところで、楽章の最後で、「God save the King」がようやく完全な形で登場し、不満は一気に爽快な気分に昇華されます。こういう展開は、 後のブラームスのハイドンの主題による変奏曲の最後に主題が還ってくる展開と同じで、まさに、待ちに待ったという気分になるのです。
 第4楽章では、「God save the King」のメロディーは、4拍子の曲の中に、無理やり3拍子で割り込んでくるなど、なかなか印象的な使われ方をしています。
 さらに、解説書によれば、このメロディーが使われているのは、すぐわかる部分だけでなく、バッハのフーガの技法並に、上下逆の反行形で表れたり、前後逆の逆行形も使われているらしいのです。第3楽章では、その形式が取り入れられているそうなのですが、残念ながらわたしが聴いた限りでは、そこまではよくわかりませんでした。
 ただ、そこまで意識しなくても、普通に古典派の交響曲として楽しめる曲です。
 たしかに、モーツァルトのような飛躍はありませんし、後のベートーヴェンのような力強さはありませんが、明るく楽しげで、驚きの展開は無い代わりに、安心して心地よい音楽に浸ることができます。
 クレメンティの交響曲の演奏は、このシモーネのものとダヴァロスのものしか持っていないのであまり比較できませんが、ダヴァロスのに比べてシモーネの演奏は、全体的に柔らかく、常に丸い響きで包むことで、曲全体を通じて一貫した雰囲気を保っています。
 さらに、安定した雰囲気を保っても単色にならないように、新たにフレーズが始まるところでは、そのフレーズを少し強調気味に入らせて、音楽に動きを与えています。
 ダヴァロスの方は、鋭さで勝っていますが、シモーネの方は落ち着いていて、雰囲気の良さがあります。(2009/4/25)


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