L.v.ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 ニ長調

指揮ウィレム・メンゲルベルク
独奏Vn:ルイス・ツィンマーマン
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1940年4月18日
発売及び
CD番号
TAHRA(TAH 420-421)


このCDを聴いた感想です。


 この演奏のツィンマーマンのソロを初めて聴いた時、「うわっ、なんてヘタクソなソリストなんだ」と呆れ果てました。
 いやもう、とてもプロの演奏とは思えなかったほどです。
 よほど、そのままお蔵入りさせようかとも思ったのですが、二つしかない、メンゲルベルクが指揮したベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲の貴重な録音の片方でもあるため、もう一度だけ聴き直してみる事にしました。
 今度は、ソリストを中心にじっくりと聴いてみたのですが、その結果、わかりました。
 ツィンマーマンのソロって、実は下手では無かったんですね……(汗)
 もちろん、抜群のテクニックというわけでもありませんが、よくよくソリストに注目して聴いてみると、テンポこそかなりの伸び縮みがあるものの、音程はしっかりしていますし、音も粒が揃っていて力強さがあり、十分にプロとして恥ずかしくない演奏です。
 では、最初に聴いた時に、なぜそこまで滅茶苦茶下手に聞こえたのでしょうか?
 原因は、テンポの伸び縮みと、音から音へ移り変わる際の音の滑らせにありました。
 その中で、音の滑らせというのは、音と音の間に軽くポルタメントが掛かっているようなもので、第二時大戦前までは、それほど珍しくない奏法だったのですが、ちゃんと弾けていないのをごまかすのに繋がる事もあって、現代ではほとんど使われていません。
 音を滑らせて弾くと、表情に艶が出て、表現の幅が広がるという利点があるものの、その反面、清らかな雰囲気が無くなり、なにより、音程が不安定に聞こえがちという欠点があります。この欠点のため、わたしが最初に聴いた時、音程が不安定に聞こえてしまい、下手だと感じてしまったのです。
 一方、テンポの伸び縮みの方は、単純に、テンポを伸び縮みさせているから悪い、という訳ではなく、事情はもう少し複雑です。
 早い話が、オーケストラ……まあ、要するにメンゲルベルクとですが、音楽が上手く噛み合っていないのです。
 メンゲルベルクは、ベートーヴェンでは、それほど極端にテンポを揺らさないとはいえ、それでも、インテンポとはとても呼べないぐらい伸び縮みさせています。
 つまり、ツィンマーマンとメンゲルベルクの両者とも、テンポを揺らしているわけですが、ソリストと指揮者が共にテンポを動かすタイプの場合、上手くはまれば、これは他の演奏では到底得られないような、個性的かつ聴く者を圧倒する音楽になる事も珍しくありません。
 また、ソリストと指揮者が全く合っていない場合は、これはこれで、爆裂な迷演(笑)として、楽しめます。
 で、この演奏の、ツィンマーマンとメンゲルベルクの場合はどうかと言いますと、このズレ方がひどく中途半端なのです。
 合うなら合う、合わないなら合わない、とはっきりしていれば、それ相応の楽しみ方があるのですが、ズレ方がほんのちょっと、しかし確実にズレているために、合いそうで合わないという、非常にじれったいもどかしさを感じてしまいます。
 細かく書きますと、一番違いがはっきり分かるのが、一つの小節内でのテンポの感じ方です。
 もし、演奏がインテンポであれば、四拍子の四つの拍は、当然全て同じ長さになるはずですが、メンゲルベルクもツィンマーマンも、微妙にテンポを揺らしているため、四つの拍が同じ長さではありません。
 メンゲルベルクは割と粘る方なので、最後の四拍目が重視されていて、フレーズの終りの場合、四拍目でテンポを引っ張っておいて、もったいつけて次の小節に入るという傾向があります。
 一方、ツィンマーマンはそのちょうど反対なのです。
 一拍目にアクセントが置かれ、それ以降はスッと力を抜いていくため、小節の頭が遅く、だんだんテンポが巻き上げられ、四拍目はかなり短く感じられるぐらい速くなります。
 この全く違うテンポの取り方を、無理に合わせようとしているため、音楽がひどく不自然に聞こえてしまいます。
 このねじれが頂点に達するのが、小節の終わりの部分で、ツィンマーマンは、前へ前へと進もうとしているのに、メンゲルベルクは後ろへ引っ張っているため、テンポが上手く合わず、次の小節にツィンマーマンが待ち切れず一瞬早く入ってしまい、オーケストラが慌ててついてくる事もしばしばありました。
 ところが、わたしはメンゲルベルクの演奏に聴き慣れていたため、ツィンマーマンが小節の最後を端折っているように聞こえ、テンポがちゃんと取れない下手な演奏家だと思ってしまったのです。

 ソリストとオーケストラを、それぞれ別に聴いてみると、ソリストはしっかり弾いていますし、オーケストラもどっしりとした響きとキレの良い音を兼ね備えた魅力ある演奏なのですが、両方を合わせると、ちょっとした感覚の違いが、全体の印象を悪くしているのです。
 ライブなのですから、往々にしてこういう事が起こるのはしょうがないのですが、それぞれを単独で見れば良い演奏なだけに、何とももったいない気がします。
 やはり、なによりも、下手に、ツィンマーマンとメンゲルベルクの音楽の傾向が近かったのが、余計致命的だったと思います。
 でも、正直言って、ソリストか指揮者が、自分の音楽を譲って相手に合わせればちゃんと揃った音楽になったのではないかという気がします。
 ……といっても、ツィンマーマンは良く知りませんが、少なくともメンゲルベルクはあまりそういう事ができるタイプでは無さそうですから、双方が自分の音楽を押し通してしまったのも、無理も無い事なのかもしれません(笑)(2002/12/20)


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