L.v.ベートーヴェン トルコ行進曲 付随音楽「アテネの廃墟」より

指揮ウィレム・メンゲルベルク
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1930年5月31日
発売及び
CD番号
Pearl(GEMM CDS 9018)
Refrain(PMCD-3)
東芝EMI(TOCE-8191〜99)


このCDを聴いた感想です。


 こういう行進曲というジャンルは、テンポやダイナミクスが概ね決まりきっているため、指揮者による違いが表れ難い曲です。
 もちろん、行進曲の中にもコンサートマーチといった、行進のためというより聴かせるための行進曲もあり、そういう行進曲であればいろいろ変化をつけてもおかしくないのですが、この「トルコ行進曲」という曲は、どうも行進させるためという印象が強く、指揮者による違いがあまり無い曲の一つだと思います。
 メンゲルベルクによるこの演奏も、メンゲルベルクにしては珍しくというべきか、テンポをほとんど動かさず、同じテンポをキープして進めています。
 それでも、ただ何の考えもなしに最初から最後まで同じテンポで演奏しているわけではなく、最初は少し遅いテンポで始め、少しずつ少しずつテンポを速めて行くことで、演奏がダレてしまわないように注意が払われています。
 なんでも、演奏の技術としては基本的なことらしいのですが、行進曲のようなずっと同じテンポが続くような曲は、最初から最後まで同じテンポで演奏していると、実際にはテンポは変っていないにもかかわらず聴いている方にとっては、テンポがどんどん遅くなってくるように感じてきます。そのため、聴いている方に同じテンポをキープしていると思わせるためには、逆にテンポを少しずつ速めていかなければならないのです。
 この演奏も、聴いている間は、最初から最後までずっと同じテンポのような印象を受けるのですが、最後まで聴いてすぐに曲の頭に戻ってみると、最後の部分のテンポに較べて、曲の頭のテンポが思いがけなく遅い事に驚かされます。
 とまあ、ここまでは他の指揮者も少なからずやっている特徴なのですが、テンポ以外の部分には、他の演奏にはあまりない面白い特徴が表れているところがあります。

 その中で一番目立つのが、なんといっても『表拍の強調』です。
『表拍の強調』というのは何かといいますと、まあ字義通りの意味なのですが、少し詳しく書きますと、行進曲という曲は、このトルコ行進曲を含めて大抵二拍子の曲です(若干例外もあります)。二本の足を『右、左……』と交互に動かして行進するのですから当たり前と言えば当たり前なのですが。で、曲の『1、2』という一小節のリズムがそのまんま『右、左』という足の動きに直結するわけです。この小節内での『1、2』というリズムは『表拍、裏拍』を表していて、メンゲルベルクのこの演奏は、その表拍を裏拍に較べてかなり極端に強調しているのです。
 しかも強調といっても、音量を変えてフォルテにしたりとか、鋭いアッタクを入れるという類ではなく、音に重みをつけるのが目的のアクセントのような強調の仕方です。
 こういう強調によって、普通は『右、左、右、左、右、左……』とバランス良く行進する筈が、この演奏だと、『、左、、左、、左……』と片方に偏った歩き方……というかイメージ的には、右足を踏み出す時だけ、妙にギュッと力を入れて踏みしめて行進しているようで、その様子を想像すると可笑しくなってきます。
 もちろん、表拍がこんなふうに強調されるのには、もともとのオーケストレーションからしてその傾向が強かったのと、録音する際に特に強調された部分がマイクに入りやすいという要素もありますが、その点を考慮してもなおメンゲルベルクにそういう意図があったように感じられます。

 メンゲルベルクのこの曲の演奏は、二種類残っています。
 両方ともスタジオ録音ですが、録音した時期は今回取り上げた演奏の1930年ともう一種類が1942年と12年も間隔が空いています。
 曲が行進曲であるだけに、他の交響曲や管絃楽曲ほど演奏が大きく変化しているわけではありませんが、それでもハッキリとした違いはあります。
 実は、一番大きな違いがあると予想した録音状態は、12年も経った割りにあまり大きな違いはありません。
 それよりも、もっと大きな違いはテンポです。
 1930年の演奏に較べて、後年の1942年の演奏は、明らかに全体的なテンポが遅くなっています。
 それに伴い、演奏時間の方も、2:35から3:04と、元が非常に短い曲にもかかわらず、30秒もの違いが出るほどです。(2002/10/25)


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