L.v.ベートーヴェン 交響曲第9番 ハ短調 <合唱付き>

指揮クリストファー・ホグウッド
出演ソプラノ:アーリン・オジェー(Arleen Auger)
コントラルト:キャサリン・ロビン(Catherine Robbin)
テナー :アンソニー・ロルフ・ジョンソン(Anthony Rolfe Johnson)
バス  :グレゴリー・ラインハルト(Gregory Reinhart)
演奏エンシェント室内管弦楽団
ロンドン交響合唱団
録音1988年9月
カップリングベートーヴェン 「エグモント」序曲 他
「ベートーヴェン交響曲全集」より
発売DECCA(L'OISEAU-LYRE)
CD番号452 551-2


このCDを聴いた感想です。


 初めて『森』を見ることができました。
 他でもない第3楽章のことです。
 この演奏は、古楽器系の演奏らしく、往年の名指揮者たちの演奏では常識であったことが大きく様変わりしている部分があちこちに見られます。
 その中の最たるものが第3楽章なのです。
 まずテンポ自体が耳を疑うくらい速くなっています。その違いは演奏時間を見れば歴然で、往年の指揮者たちがだいたい16分からトスカニーニですら17分以上、有名なフルトヴェングラーのバイロイトに至っては19分をオーバーするなど、どんなに速い演奏でも15分を切ることはまず無いのに対して、このホグウッドの演奏は10分43秒。多少とかそういった誤差の範囲ではなく、明らかに発想自体が異なっています。わたしは古楽器系の演奏をほとんど聞いたことがないので、もしかしたら古楽器系では当たり前のテンポなのかもしれませんが、少なくとも過去の名演と呼ばれる数々の演奏とは完全に別物です。
 この速いテンポの演奏と聞くことで、わたしは初めてメロディーの流れや、構造の美しさに気がつきました。
 といいますか、第3楽章ってこれほど表情豊かな美しい音楽だったんだ、と衝撃を受けたといった方が良いかもしれません。
 例えば、メロディーにしても、今まで聴いてきた演奏では、たしかに時間をかけてじっくりと歌いこんでいます。それが何小節に渡ってまたがっていても、おそらく演奏する方は、一貫した流れに沿っていて、一つメロディーとして大きく歌っているのでしょう。
 しかし、問題は演奏する方ではなくわたしの方にあります。わたしはその流れを追うことができないのです。
 その場その場での動きや響きはわかるのですが、全体が大きすぎて一つの大きなメロディーとして捉えることができなかったのです。テンポが遅いため本来なら伴奏のはずの細かい動きの方に注意が向いてしまい、メロディーは旋律ではなく伴奏の和音の一部のように思えてきたほどです。
 細かいところばかり見えて全体が見えない、つまり『木を見て森を見ず』という状態でした。
 それが、この演奏でやっと全体を大きく見ることができました。メロディーの流れとそれに合わせて音楽が変わっていく様子が感覚として感じられます。
 ホグウッドのメロディーの歌わせ方も、柔らかく流れを重視して大きく表情をつけていて、これも速いテンポに良く合っています。
 過去の名指揮者の演奏にはホグウッドの演奏にはないスケールの大きさがあり、偉大だとは思いますが、ホグウッドの演奏には全く別の観点から見た魅力があり、テンポの遅い演奏に今一つ馴染めないわたしのような人間には、かえってこういう演奏の方が第3楽章の良さが伝わるのかもしれません。(2006/3/4)


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