L.v.ベートーヴェン 交響曲第8番 ヘ長調

指揮ウィレム・メンゲルベルク
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1943年5月13日
カップリングベートーヴェン 交響曲第2番 他
Historic unissued Live Recordings(1942-1943)
販売TAHRA
CD番号TAH 391-393


このCDを聴いた感想です。


 メンゲルベルクのベートーヴェンの第8番の録音はかなり多い方で、4楽章分フルに残っているものだけでも、スタジオ録音1種類、ライブ録音2種類の計3種類があります。
 これ以外にも、第2楽章のみの録音もありますので、ベートーヴェンの曲では、怪しげな(笑)録音が多く残っている第3番に次いで録音が多い曲だと思います。

 今回取り上げる演奏は、3種類の中で最も後年の演奏であり、最近TAHRAより発売された「未発表ライブ録音集」の中の一曲です。

 メンゲルベルクはベートーヴェンを演奏する場合、チャイコフスキーやマーラー等の演奏と異なり、大抵はテンポの伸び縮みをそれほど大きくはつけません。
 しかし、メンゲルベルクも晩年に近づくにつれ、ベートーヴェンを演奏する際も、次第に大きくテンポの変化をつけるようになり、粘着性が高くなってきました。
 この演奏は、1943年とかなり晩年に近い演奏であるため、ベートーヴェンにしてはテンポの変化がかなり大きくつけられています。
(……といっても、さすがにチャイコフスキーやマーラーほどではありませんが……)
 一つ前の1940年のPHILIPSのライブの演奏と比較しても、テンポの落とし方がより極端になって来ているのがわかります。
 特に新しい曲想に移るときは、必ずテンポを大きく落として聴き手の注意を引きつけています。

 しかし、テンポの変動が激しく粘っこいからといっても、前に進む力の乏しい、もたれた演奏ではありません。
 一音一音にかっちりとしたアタックがあり、さらに音をマルカート気味に短くザクザク切って行くので、テンポは一定に保たれていないのに、まるでインテンポで演奏しているかのような突進力があります。

 また、歌わせるメロディーにおいては、メンゲルベルクらしくポルタメントを大胆に使用し、大き目のビブラートと掛け合わせることで、怪しいまでの柔らかさを引き出しています。
 これは、通常のメロディーより音符の一つ一つが長い対旋律の方により強く表れていて、例えば、第4楽章のヴァイオリンにある、全音符2つ分の伸ばしの次に全音符一つづつでC−DGと上がっていく対旋律なんかは、ほとんど麻薬のような甘さで、思わず脳が溶けてしまいそうです。

 これらの、突進力+柔らかなメロディーという組み合わせは、特に第1・第4楽章に顕著に表れています。
 エネルギーに満ち溢れた音楽の流れと、極端なテンポ変化、さらにとろけそうなメロディー、という、とても同じ場所に同居できそうにない怪しさ大爆発な取り合わせが、感心するぐらい上手いこと結びついているから驚きです。
 まあ、出来上がったところで誰も真似しようとは思わないぐらい個性的なことには変わりはありませんが……(汗)

 強烈な第1楽章と第4楽章にくらべ、第3楽章はいくぶん優雅な雰囲気があります。
 特に、トリオのメロディーは優しく柔らかで、まるで豪華客船がゆったりと航海しているのを見ているかのようです。
 一方、主部のメロディーは、A C−−と上がるときに、Cの音が一瞬だけ遅れ、しかも硬くて強いアクセントがついている所が、爆発するようなエネルギーが感じられ、まるで軍艦がドカンと主砲を撃っているのを見ているかのようです。
 ………あんまり優雅じゃありませんでしたね……

 最後に第2楽章ですが、わたしはこの演奏の第2楽章はどうも問題があるような気がします。
 楽器の食いつきが早過ぎるというか、なんだか全体的に前に突込み気味に聞こえます。
 決して速いテンポというわけでもないのに、前に前に行こうとしすぎて、焦っているような印象を受けます。
 実際に、テンポもだんだん速くなってしまっているようです。
 もう少し、落ち着いてやって欲しいところです。

 録音の状態は、1940年代だけあってかなり良好です。
 最強音で若干音が歪みますが、ノイズはほとんどありませんし、各楽器も鮮明に聞こえます。
 ほとんど1930年代のスタジオ録音に近いぐらいの水準は十分にあります。(2001/6/22)


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