L.v.ベートーヴェン 交響曲第6番 ヘ長調 <田園>

指揮ウィレム・メンゲルベルク
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1937年12月22日
発売及び
CD番号
HISTORY(205254-303)
TELDEC(3984-28408-2)
Pearl(GEMS 0074)
TELDEC(243 728-2)
オーパス蔵(OPK 2016)
CANTUS(CACD5.00148)


このCDを聴いた感想です。


 この演奏で、一番の聴き所は第1楽章だと思います。

 第1楽章は、みなさんもご存知の通り、初めにテーマが演奏されて直ぐに一旦フェルマータで音楽が止まり、その後改めて続きに入ります。
 この演奏は、冒頭からフェルマータの部分まではそれほど変わったところは無いのですが、フェルマータの後からの音楽にはビックリさせられます。
 急にテンポがバーンと跳ね上がり、さらに加速していきます。しかもその加速の仕方が、グーングーンと段階を経てスピードアップしているため、まるで新幹線に乗って加速していくみたいに、グイグイ引っ張られていきます。
 そのスピード感は弾丸列車並みで、田園地帯なんて一瞬で通り過ぎてしまいそうです。
 その上、音も短く短く切って半端じゃないキレがあるわ、アクセントは叩きつけるような硬いアタックだわで、一般的にイメージされるような『田園』とは全く正反対の印象を受けます。
 楽譜には『いなかに着いた時の愉快な感情のめざめ』(全音楽譜出版社)と書かれていますが、全然違います。
 そんな落ち着いたものではなく、どっちかというと『機械工場の朝』とでもいうようなタービンとかピストンを連想させるような雰囲気です。

 この雰囲気は、第2楽章に入ると大分落ち着いてくるものの、まだ第1楽章の余韻が残っています。
 強弱の差は激しく、アクセントは第1楽章と違ってゆっくりと重く、でもスタッカートはとても短く、といったように、ゆったりとした落ち着いた雰囲気とは無縁の世界です。
 さらにメロディーは表情豊かにポルタメントまで入れてたっぷり演奏するものですから、スケールだけは無闇に大きくなり、楽譜上は『小川のほとりの光景』ですが、これでは『大海のほとりの光景』です。

 第3楽章もスピード感に溢れています。ただでさえテンポが速いのに、アクセントが重くなり過ぎないように硬めにアタックを入れた後、跳ね返るようにすぐに抜いているので、音楽が鈍重にならず、かなりリズミカルで筋肉質になっています。
 そのため、村人たちの素朴な踊りどころか、なんだかハードロックでヘッドバンギングしているよな雰囲気があり、激しい音楽です。

 第4楽章は、本来だったら激しい音楽を聴くことが出来るはずなのですが、ここだけは録音の悪さに足を引っ張られています。
 マイクにまともに音が入っているヴァイオリン等は、雷鳴や嵐に相応しい激しくキレのある演奏をしているのですが、他の弦楽器や管楽器、特にティンパニーが全然マイクに捉えられていません。
 この楽章は低弦が、ほとんど演奏不可能じゃないかと思えるぐらい細かい動きがたくさんあるのですが、この録音では、「ん〜、なにか低弦がごちゃごちゃやってるな〜」ぐらいに遠くで演奏しているかのようにぼやけて聞こえます。
 ディンパにーに至っては、「音の感じからはたぶんフォルテで叩いてるんだろうけど、聴こえて来るのはピアノぐらい」という有様で、アタックの効果はまるで出ていません。なにせ一番聴こえて来なければならないアクセントの音が、周りにかき消されて一番聴こえない音になってしまっているぐらいですから。

 第5楽章に入っても、キレのある演奏は続いています。
 嵐が去った後の、のどかな光景とはとても言えず、音をスタッカートでビシバシ切っていく様子は、ほとんど『活力に満ち溢れた工場』といった雰囲気です。
 音楽に勢いがあり、スピードに乗った気持ちの良い演奏なのですが、『牧人の歌』とは……間違っても形容できませんね。

 全曲を通して、音楽にメリハリがついた活力のある演奏なのですが、普通に『田園』が好きな人にとっては、「こんなのどこが『田園』なんだーっっ!!」と怒ってしまいそうな演奏です。
 どちらかというと、「今までどうも『田園』が好きになれなかった」という人に向いた演奏かもしれません。
 ちなみに、わたしはこの演奏が大好きです(笑)

 さて、メンゲルベルクの『田園』を語る上で避けて通れないのは第2楽章のメロディーです。
 メンゲルベルクは第2楽章のメロディーに、他の人は絶対にしないであろうと思われるほどの大きな変更をしています。
 第2楽章は12/8拍子なので、リズムは23,23,23,23,23……と進んで行きます。
原曲と編曲両方です  メロディーもリズムにあわせて『ドー3,223,323,4ドレミレ|レドー』となっているのですが(楽譜(1)のVn.I)、メンゲルベルクは第1小節目の4拍目の『4ドレミレ』と本来は頭に入る八分休符(楽譜(1)で赤丸で囲んだ休符)を無くして、『ドレミレ』と、4連符にしているのです。(譜面(2))
 そのため、聴いた感じでは、この部分が他の演奏に比べて、かなりゆったりしたテンポとなり、強調されて聴こえます。
 このようにインパクトは十分にあるのですが、いくらなんでもこのフレーズだけ他とテンポが異なっているのはあまりにも変です。
 このアレンジは、現代ではとてもじゃないですが、受け入れられないでしょう。
 メンゲルベルクは楽譜に手を入れることで有名ですが、カットを別とすれば、この変更は、メンゲルベルクが行なったアレンジの中でも一二位を争う奇抜なものだと思います。(2001/12/7)


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