指揮 | ウィレム・メンゲルベルク |
演奏 | アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 |
録音 | 1938年12月1・2日 |
発売及び CD番号 | Pearl(GEMS 0074) World Classic(WC 44012) オーパス蔵(OPK 2014) |
この交響曲第4番は、R.シューマンによる「二人の北欧の巨人に挟まれたギリシアの乙女」という有名なキャッチフレーズがあります。 たしかに、ワルターの演奏等を聴くと、この曲がそう称されるのがよくわかります。 また、編成的にも、ベートーヴェンの交響曲9曲の中で最も小さい編成です。 時間的には第8番の方が短いのですが、この第4番の方はフルートが1本しか使われないため、編成としては最小になるのです。 ……そういえば、マーラーも交響曲の中では第4番が最も小さい編成でしたね。 偶然とはいえ、なかなかおもしろい一致です。 メンゲルベルクの演奏するこの曲は……間違ってもギリシアの乙女ではないでしょう。 ずっと、男性的です。 音楽がテンポ良く真っ直ぐ突き進んでいくところは、陸上選手が全力で100m突っ走って行くみたいで、乙女というにはあまりに直線的すぎるでしょう。 テンポを同じ速度を保っているだけでなく、音の一つ一つを短めに切ってアクセントを強めに入っているため、軽快さと迫力とが同時に出ています。 これは、どう考えても乙女というより、男……それも若々しい青年でしょう。 あっ、若さという点では、乙女と共通するところもあるかもしれませんね(笑) 実際のところ、乙女の要素が全く無い訳ではありません。 それは何かと言えば、「柔らかさ」です。 メンゲルベルクのベートーヴェンは、アタックやアクセントにちょっと癖があったりして、妙に無骨に感じる場合が多いのですが、この演奏では、メロディーが柔軟に歌われていて、リズムは硬く引き締まっているのにもかかわらず、あまり無骨に感じません。 そのため、音楽の進行自体は直線的なのですが、カクカクした感じではなく滑らかに流れていくため、音楽が全体的に柔らかく感じられるのです。 しかし、この要素、乙女っぽいとはいえ、元が男性的なので中性的に近づくだけで、どっちかというと乙女というより少年っぽいですな(笑) 実は、この演奏には、メンゲルベルクにしては非常に珍しい現象が起きています。 メンゲルベルクは、第一楽章の呈示部の最後の方である第183小節で低弦にFの音を演奏させています。 メンゲルベルクの演奏を聴かれた事の無い方のほとんどが「えっ!? そんなところにFの音なんてあったっけ?」と思われたことでしょう。 たしかに、ほとんどの演奏には、こんなところにはFの音なんてありません。 そうすると、「またメンゲルベルクがいつもの癖で、編曲して音符を増やしたな」と思われる方も多いでしょう。 ところが、楽譜を見てみると、驚くべきことにこのFの音はしっかりと楽譜に書かれているのです。(楽譜(1)の低音パートに書かれている赤丸で囲った音) ![]() こういう珍しい逆転現象(?)が起こった背景には、「この音が書いてあるのは完全にベートーヴェンの間違いだろう」という定説があります。 この説は昔から多くの音楽学者が指摘しており、たしか最新のベーレンライター版ではこのF音はついに削除されたかと思います。 そのため、古楽器奏者等の原典にこだわる演奏家もほとんどカットしていて、メンゲルベルク同様そのFの音を演奏させるのはショルティとマズアくらいだそうです。 個人的には、このFの音はあった方が好きなんですけどねぇ。 この演奏は、「World Classic」というベルギーの怪しげなレーベルのCDと、「Pearl」のものと、最近発売された「Opus蔵」の三種類のCDがあります。 この中で、PearlとOpus蔵はほぼ同レベルの復刻だと思います。 ただ、Pearlの方が雑音が少ないのですが音がこもり気味で、Opus蔵の方は反対に音は若干鮮明なのですが雑音も倍増しています。 この二つはどっちでもそう間違いは無いと思いますので、後は好みで好きな方を選んでも問題無いでしょう。 残りのWorld Classicは、音質が他の二つより落ちます。 雑音の多さや音の鮮明さという点では、実は他の二つとそんなに大差ないのですが、途中音の歪みが酷いところがあり、あまりお薦めできません。とはいえ、今となっては見つける方が難しいと思いますが……(2001/8/3) 楽譜を掲載して、一部文章を修正(2001/12/26) |