指揮 | ロジャー・ノリントン |
演奏 | SWRシュトゥットガルト放送交響楽団 |
録音 | 2002年8月30日 |
カップリング | ベートーヴェン 交響曲第4番 |
発売 | hänssler |
CD番号 | CD 93.085 |
何とも若々しい演奏です。 速めのテンポをキープして音を短く切っているせいもあるのですが、音楽が生き生きと弾み、何の迷いも無く真っ直ぐに進んで行きます。 よくベートーヴェンというと、「苦悩」とか「勝利」とか「重厚」という言葉がつきものですが、この演奏は、そういった言葉とは無縁です。 苦悩を感じさせるような渋さや深み、重厚さを感じさせるような低音主体の分厚いサウンド、そして、勝利を象徴するかのような輝きや迫力ではなく、恐れを知らず将来に何も不安もない若者のような、明るい希望と、まずは前に進んで行こうという積極性と、俊敏な身の軽さがあります。 例えば第2楽章は、葬送行進曲という副題がついているぐらいですから、多くの演奏では粛々として暗く重く、中間部の長調の部分(マジョーレ)も手放しで明るいのではなく、過去の幸せな時代を回顧するかのような一歩引いた明るさだったりするのですが、ノリントンは「葬送」よりも「行進曲」の方に焦点を当てています。 そもそも最初のテンポからして速めなのですが、音楽が後ろへ重く引っ張られる事が無く、一歩一歩着実に、いや、むしろ積極的に前へ行こうとするフットワークの軽さがあります。 雰囲気も、最初にオーボエで演奏されるメインのメロディーが登場するときに若干暗めなだけで、第2主題など他のメロディーのときは、中間部の長調の部分を演奏しているのじゃないかと思えるぐらい明るく感じられます。 もちろん、明るいといっても、何も考えてないような能天気でにぎやかな明るさではなく、軽くはあるのですがずっと静かで、誰もいないお花畑のような透明感のある明るさです。 葬送行進曲の第2楽章ですらこんな感じですから、もともと明るめの他の三つの楽章は、もっと活力に満ち、伸び伸びとした明るさと勢いがあります。 勢いよく突き進むというと、トスカニーニのような立ち塞がるもの全てを弾き飛ばすような強さを想像されるかもしれませんが、ノリントンの演奏はこれとも少し異なります。 勢いよく突き進むという点では同じなのですが、全てを跳ね飛ばすような強さや迫力は無く、代わりに、障害物があっても、踏切りをつけてそれをポーンと飛び越えて行くような軽さとスピード感に溢れています。 これだけ溌剌とした演奏なのですが、もう一つ面白い事に、ノリントンは細かい部分に妙にこだわりを見せています。 アクセントにも一つ一つ違いをつけたり、一部の対旋律を強調してみせたり、同じ音が連続して続くような部分では、弱い音から一音ずつ強くクレッシェンドしていったりといった楽譜に書いていないことまでしています。 こういうこだわりは相当細かい部分まで及んでいて、ほとんどメンゲルベルク並と言ってよいぐらいなのですが、メンゲルベルクのようにゴチャゴチャと弄り回したような印象は受けません。 そういう印象受けなかった理由としては、一つはポルタメントだけは全く用いていない事もあるのですが、もっと大きな理由はテンポです。 メンゲルベルクと違い、ほぼ一定のテンポを保ち、ほとんど動かしていないため、いろいろいじっている割には素直で若々しい演奏に聞こえるのです。 頭の方でも書いた通り、いわゆるベートーヴェンのイメージからは遥かに離れた演奏ですが、爽快で気持ちよい演奏です。(2003/9/6) |