L.v.ベートーヴェン 交響曲第3番 変ホ長調<Eroica> 〜第2・3・4楽章〜

指揮ウィレム・メンゲルベルク
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1940年4月14日
発売及び
CD番号
TAHRA(TAH 401-402)


このCDを聴いた感想です。


 メンゲルベルクのベートーヴェン・チクルスの、ミッシングリンクを繋ぐのが、この演奏です。
 まず、その経緯から書いておきます。

 ディスコグラフィーを見て頂ければわかるのですが、メンゲルベルクのベートーヴェンの交響曲には、スタジオ、ライブを合わせれば、数多くの録音が残されています。
 その中に、フィリップス社から「交響曲全集」という形で発売されていた、一連のライブ録音があります。
 これは、メンゲルベルクのベートーヴェンの録音の中でも、テレフンケン社へのスタジオ録音の選集と並んで、最も昔から世間に流布していた録音です。
 この全集として発売されたライブ録音は、1940年4月14日から5月2日にかけて行なわれたベートーヴェン・チクルスの際に録音されたものなのですが、実は、この全集の中で第3番だけ、チクルスの録音ではありません。
 第3番だけは、チクルスからほぼ半年後の11月に、テレフンケン社によってスタジオ録音された演奏が収録されていました。
 4月のチクルスの際に、第3番も演奏されていた事は確実だったので、おそらく何らかの理由で録音が失敗したため、代わりに半年後のテレフンケン社のスタジオ録音を収録させてもらったのだろうと言われていました。(実際、その通りだったわけです)
 その幻の演奏のヴェールが一部剥がれかけたのは、後に、Music&Arts社から、同じ交響曲全集が発売された時です。
 この全集の第3番は、4月14日録音と表記されており、実際、以前収録されていたスタジオ録音とは完全に異なるライブ録音が収録されていました。
 聴いてみると、ほぼ完全に録音が残っていたとはいえ、たしかに第3楽章の最後で録音がおかしい部分があり、これがために以前発売された全集ではスタジオ録音と差し替えられたのかとも思ったのですが、結論としては、この演奏は4月14日の演奏ではなく、1943年5月6日の演奏だったようです。
 その後、ますます幻になってしまった4月14日の演奏について、「第1楽章の録音に失敗したから全集に収録されなかった」とか「いや、録音に失敗したのは第2楽章だ」とかいろいろな噂が聞こえてきましたが、今度こそ真の4月14日の演奏といわれるこのCDが出た事によって、この騒動にもピリオドが打たれたわけです。
 結局、録音が失敗していたのは第1楽章で、残る第2・3・4楽章のみの演奏となっています。
 さすがに一つの楽章が丸々抜けた演奏では別の演奏と差し替えられても仕方が無いところでしょう。

 さて、肝心の演奏についてですが、まず、演奏以前に、特筆しておきたいのが録音です。
 たしかに、音は割れがちで、それぞれのパートの音の分離も悪く、特に低音のパートは埋もれてしまっています。
 しかし、その欠点を補って余りあるぐらい、楽器の音が鮮明なのです。
 楽器そのものの音が、当時よくあった、観客席とステージの間にカーテンを何枚も挟んだような、距離を感じる音ではなく、目の前で弾いているような生々しい音で迫ってくるのです。
 古い録音なのに生々しいところは、なんとなく戦争等のドキュメンタリー・フィルムに似た雰囲気があります。
 もちろん、リマスタリングによる差もあるのかもしれませんが、同じレーベルの同じ曲の他の演奏では、ここまで生々しくないため、録音の時点で差があるのだと思います。
 一方、演奏の方は、音の生々しさもあり、メンゲルベルクの他の録音と較べても、より力強いものです。
 それに加えて、音楽に迷ったり悩んだりして立ち止まるような澱みが無く、常に前を見据えて、真っ直ぐに進んで行こうとする意志の強さがありありと感じられます。
 特に、第2楽章と第4楽章のフーガの部分に顕著に表れていて、第2楽章は遅いテンポ、第4楽章は速いテンポという違いはあっても、両方とも、どのパートがメロディーとして入って来る時も常に、今まである響きの中に錐で穴をあけるように、鋭く真っ向から固い意志で貫いて行きます。
 ここには、ギリギリまで絞り込んだ密度の濃さと、強い緊張感があります。
 これは、音楽がフォルテの時はもちろんピアノでも変わらず、例えば、ピアノでは、メロディーにポルタメントをかけたりと、滑らかに柔らかく演奏されているのですが、そこに多少の甘味はあっても、優しさやリラックスした雰囲気はほとんどなく、常にピンと張りつめた空気が支配しています。
 また、アンサンブルの方では、第4楽章の冒頭が良い例ですが、各パートが一人で演奏しているのじゃないかと思えるぐらい、パート内部では冗談みたいによく揃っています。
 その反面、パート同士では若干甘く、第4楽章のようにいくらテンポが速くても一定ならばピッタリ揃っているのですが、第2楽章のようにテンポが遅くてもテンポの揺れが大きいと、縦の線にどうしても乱れが出ています。
 まあ、これはライブの演奏なので、ある程度はやむをえない事なのでしょう。
 ただ、どうしても気になったのがオーボエで、特に第2楽章です。
 メロディーを情緒たっぷりに歌わせているのは非常に良いのですが、なぜかテンポのノリが悪く、出を待ちきれずに前に飛び出しがちなのです。
 前に飛び出してしまうと、どうしてもせかせかした印象になってしまうだけに、ここはどうにか我慢して欲しかったものです。(2003/7/5)


サイトのTopへ戻る