L.v.ベートーヴェン 交響曲第3番 変ホ長調<Eroica>

指揮キリル・コンドラシン
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1979年3月12日
カップリングベートーヴェン 交響曲第2番 他
「コンセルトヘボウの名指揮者たち」より
発売日本フォノグラム(PHILIPS)
CD番号PHCP-1263〜5(438 074-2)


このCDを聴いた感想です。


 正直言って、コンドラシンがここまでオーソドックスな演奏をする指揮者とは思っていませんでした。
 どうしても『ソ連の指揮者』というイメージが先に立ってしまい、やたらと激しく強弱に差をつけたり、金管がバリバリと音を割りまくるような演奏をするものと勝手に思っていたのですが、ソ連時代はともかく、この演奏においてはそんな雰囲気は微塵も感じられません。
 もちろん、だからといって純ドイツ風な重厚な演奏というわけでもなく、もっとインターナショナルな拡がりが感じられます。
 テンポも往年の指揮者達のように動かしたりせず、常に一定のテンポを保っていますが、遅めのテンポということもあって、前にどんどん突き進んでいくような推進力はあまり感じられず、代わりに地に足をつけたような安定感と、曲の流れに合わせて木目細かく対応できる柔らかさがあります。
 メロディーも過剰に歌いすぎたりしません。
 よく、第2楽章の葬送行進曲は、冒頭のメロディーをすすり泣くように歌わせたり、中間部のフーガを慟哭するように全身全霊を込めて弾かせる演奏も多く、そういう演奏はそういう演奏で別の良さがあるのですが、コンドラシンは、オーバーなアクションを避け、感情を内に込めて静かに演奏させています。
 そのため、逆に、泣き喚いたりせず、じっと悲しみに耐えているかようで、より悲壮な雰囲気になっています。
 しかも、感情的な乱れが無い分、メロディーのフォルムが保たれていて、スケールも大きく感じられます。

 さらに、この演奏をオーソドックスたらしめている一つの特徴があります。
 それは、楽譜に忠実な演奏であるという点です。
 いや、楽譜に忠実であるというだけでは、普通と思われるかもしれません。
 言い換えましょう。
 楽譜に書かれている記号をクッキリと浮かび上がらせた演奏です。
 一体どういう事かと言いますと、どの曲でも良いのですが、楽譜を見たことある方なら、楽譜には音符の他に、強弱記号やスラー・スタッカート、表現記号が書かれている事をご存知かと思います。
 この演奏は、これらの補助的な記号の中の、強弱記号とスタッカート、スフォルツァンドを、何もついていない音符とははっきりとした差をつけて演奏しているのです。
 そのつけ方は、結構極端なほどで、何も考えず聞いていると「えっ!?」と違和感を感じる事も少なくないのですが、改めて楽譜を見てみると、たしかにそう演奏する事にちゃんとした根拠があることがわかります。
 なかでも、特筆しておきたいのが、(フォルテ)とff(フォルティッシモ)の差です。
 大抵の演奏の場合、強弱に差をつけていても、pとfは大きく差がついているのに、fとffはほとんど変らない強さで演奏しています。
 しかし、コンドラシンは、fとffの差を、ボーっと聞いていてもすぐにわかるぐらいはっきりと差をつけています。
 これは非常に新鮮でした。
『楽譜に忠実な演奏』というと、わたしなんかは、楽譜通りに音を出す事ばかりに気を取られてスケールがどんどん小さくなって行く印象が強いのですが、このコンドラシンの演奏は、楽譜に忠実に音を出してもスケールの大きな演奏はいくらでもでき、しかも表現の幅も広がることを教えてくれました。

 最後に一つだけ。
 この演奏、アンサンブルが非常に揃っています。
 縦の線、ハーモニーともほとんど乱れが見当たりません。
 さらに、録音も年代相応にそこそこ良い事もあって、わたしは、当然この演奏はスタジオ録音だと思っていました。
 ところが、曲の最後まで聴いてみると、なんと終った瞬間、熱狂的な拍手が収録されているじゃありませんか。
「ええっ! まさかライブ録音!?」と思いましたが、一応、スタジオ録音の最後に拍手だけくっつけたという可能性もあります。
 そこで改めて最初から聴き直したのですが、よくよく聴いてみると、あちこちに咳払い等の客席からの雑音が入っています。
 ということは………
 やはり、どうも本当にライブ録音のようです。
 うーむ……こんな演奏を、よく一発でできるものです。ほとんど信じられないような思いがします。(2003/3/15)


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