L.v.ベートーヴェン 交響曲第3番 変ホ長調<Eroica>

指揮ウィレム・メンゲルベルク
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1942年3月5日?
カップリングベートーヴェン 交響曲第2番 他
Historic unissued Live Recordings(1942-1943)
発売TAHRA
CD番号TAH 391-393


このCDを聴いた感想です。


 「今頃になって、メンゲルベルクの未復刻のライブ録音が見つかるとはビックリ!」

 この演奏が入っているCD(Historic unissued Live Recordings(1942-1943))に収録してある曲は、全て初出の演奏です。
 わたしはこのCDの事をTAHRAのサイトで初めて知ったのですが、そこに書かれているCDの紹介の中の、演奏の収録日を見たときはかなり疑っていました。
 たしかに今まで出回っていた何種類かの<Eroica>とは違う日付が書かれていましたが、全く違う録音日とされている演奏が、聴いてみると実は同じ演奏というのは、古い録音ではよくある話です。特にメンゲルベルクのCDでは(笑)
 今まで何遍もそういうCDを掴まされてきましたので、今回もその類だろうと思っても仕方の無いところでしょう。
 だって、今更全く新しい演奏が発掘されるなんて思いも寄らないことですよ。普通に考えれば(笑)
 そんなわけで、CDを買ったのも、持っている演奏とダブっていても、TAHRAの復刻なら音が格段に良くなってるだろうな〜 という期待からです。
 家に帰って聴いてみると……驚きました。
 それは、紛れもなく聴いたことがない演奏だったのです!
 念のために、今まで持っていた他の日に録音された演奏と何遍も聞き比べてみましたが、やはりどの演奏とも異なるようです。

 しかし、次に疑ったのが、メンゲルベルクではない他の人の演奏ではないか、という事です。
 これまた古い演奏ではよくある話で、メンゲルベルクではこれまで無かったようですが、某フルトヴェングラーなんかは被害の常連(?)で、けっこう多くの演奏が、実は他の人の演奏だったということが明らかになっています。
 コンセルトヘボウの音を聞き分けられれば、一番確かなのでしょうが、残念ながらわたしにはそこまでの耳はありません。
 そうすると演奏の特徴から判断するしかないのですが、幸いメンゲルベルクの<Eroica>には 、何箇所か他の人は全くやっていないような大きな特徴があります。
 最も大きな特徴は第1楽章にあります。
提示部と再現部のトランペットの楽譜です  楽譜(1)と楽譜(2)は、ともに提示部と再現部の両方に共通しているパターンが出て来る部分の楽譜です。
 便宜上、トランペット(Trp)とティンパニー(Timp)と1stヴァイオリン(Vn.I)のパートだけですが、トランペットがフォルティッシモで付点二分音符を演奏する直前に、楽譜(2)の再現部の方は、八分音符三つの分散和音が書かれている事がわかると思います。(赤丸で囲んだ部分です)
 一方、楽譜(1)の提示部の方では、その三つの八分音符はありません(同じく赤丸で囲んだ部分)
 ところが、メンゲルベルクは、この提示部のほうにも再現部と同じ三つの八分音符をトランペットに吹かせているのです。
 これは、おそらく、第1楽章の最後で、メロディーを吹いていたトランペットが、当時では出ない音があるという理由でメロディーから消えてしまっているのと同様で、この部分も、メンゲルベルクは、ベートーヴェンが当時では出ない音だったからあきらめただけで、本当は提示部の部分も分散和音を吹かせたかったのではないか(再現部の部分は当時のトランペット(ナチュラルトランペットなので倍音しか出せない)でも出せる音)、と考えてあえて楽譜に無い音を入れたのではないかと思います。
 まあ、第1楽章の最後でトランペットにメロディーを最後まで吹かせる指揮者は多くいますが、さすがにそんなところまで変えている指揮者は他にはいないでしょう(笑)
 他の特徴としては、ポルタメントをかける部分と、テンポ設定があります。
 メンゲルベルクは録音し始めた頃から演奏禁止になるまでの期間が長かったにもかかわらず、演奏のスタイルの変化が少ない指揮者でした。
 そのため、同じ曲の演奏であれば、いつの時代の録音であっても、テンポ設定などは驚くほど良く似ています。
 その辺が、『固定化された芸風』と言われる原因でもあるのですが(笑)、この場合のような真偽を確かめる時には非常に便利です。
 で、いろいろ比較した結果、やはりメンゲルベルク本人の演奏だと思います。
 他の録音の<Eroica>に見られる特徴を、兼ね備えていました。
 もし、これが他の人の演奏だったら……そりゃ、確信犯でしょう(笑)
 「ここまで、よくぞ真似できた!」と、逆に賞賛に値します(笑)
 ここまで読んで頂いた方の中には、繰り返しの有無を調べれば、もっと手っ取り早くわかるのではないかと、思われる方もいらっしゃると思います。しかし、実はこと<Eroica>についてだけは決定的な証拠にはならないのです。
 というのは、メンゲルベルクは繰り返しをやるやらないが、演奏によってバラバラなのです。
 例えば第1楽章の繰り返しであれば、最初のニューヨーク・フィルとのスタジオ録音の際には繰り返してますが、それ以降の演奏ではスタジオ録音・ライブを問わず、繰り返しはやっていません。
 まあ、この点については、「昔は繰り返していたが、ある時期から繰り返すことをやめた」と考えれば、分からない話ではありません。
 しかし、第3楽章の主部の繰り返しは、3番目の録音である1940年11月のスタジオ録音だけやっておらず、他の3種類では繰り返しています。
 もっと昔のニューヨーク・フィルとの録音では繰り返しをしているのですから、あながち当時の録音技術上の制約とも思えませんが…
 どうもいまいち基準がよくわかりません。

 さて、前振りが長くなってしまいましたが、この演奏の特徴について書いて行きたいと思います。
 他のメンゲルベルクの<Eroica>と比べ、この録音は最も後年の演奏であるため、テンポの揺れは最も激しくなっています。
 そのため、スピード感や前へ進んでいく勢いは薄くなっていますが、代わりに、ここ一番で大見得を切ったときの集中力や迫力は随一のものです。
 特に、テンポの揺れが甚だしくて特徴が出ているのが第2楽章と第4楽章で、第2楽章に至っては、メロディー一つ一つにルバートという指示が出てるんじゃないかと思えてくるぐらいゴムのようにテンポが伸び縮みします。
 さらに、これにポルタメントが加わるわけですから、「もう思い残すことはない!」というくらい、自由奔放というか、もう好き放題やってくれてます(笑)
 第4楽章は、メロディーの中でのルバートというより、変奏一つ一つが独自のテンポで演奏されているのです。
 聴いていても、「よくまあ、オーケストラがついてこれるものだ」と感心してしまいます。
 いくら訓練してあるとはいえ、何だか反射神経の限界に挑戦しているみたいです(笑)
 こういう細部へのこだわりは、全曲通じて大きく、ほとんど末端肥大症と呼ばれてしまいそうな演奏なのですが、聴いている方にとっては素晴らしい興奮を与えてくれます。
 また、テンポの揺れが激しくても、一音一音は短めでキレがあるため、実は意外ともたれません。

 録音状況は、大戦中のライブ録音だということを考えれば、かなり良い方ではないかと思います。
 ノイズリダクションをかけてあるのでしょうが、音自体はかなりクリアで、雑音も気にならない程度です。
 ただ惜しいのは、第4楽章の途中で何小節か音飛びをしている部分があるのです。
 他が良いだけに、残念です。(2001/2/16)

 楽譜の写真を掲載したことで、一部文章を変更しました。(2001/12/7)


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