L.v.ベートーヴェン 交響曲第3番 変ホ長調<Eroica>

指揮ウィレム・メンゲルベルク
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1940年11月11日
発売及び
CD番号
日本フォノグラム(PHILIPS)(PHCP-3084〜97)
Pearl(GEMS 0074)
オーパス蔵(OPK 2015)
ANDANTE(2966)


このCDを聴いた感想です。


 この演奏を初めて聴いた時、正直言ってこれはダメだと思いました。
 わたしがまだ大学生の頃で、日本フォノグラム(PHILIPS)の「ウィレム・メンゲルベルクの芸術」という14枚組のセットに入っていたベートーヴェンの交響曲全集の中の一枚で、メンゲルベルクの「Eroica」としても初めて聴いた演奏でした。
 ただ、「Eroica」こそ期待外れでしたが、その全集の他の8曲はどれも素晴らしい演奏で、それだけに、よけい「Eroica」の粗が目立ちました。もしかして、「Eroica」だけメンゲルベルクに向いてなかったのか、とまで思ったものです。
 また、解説書を読むと、他の8曲が1940年春の一連の連続演奏会(チクルス)のライブ録音なのに、「Eroica」だけ半年後のスタジオ録音の演奏が使われていると書いてあり、なぜわざわざスタジオ録音を持ち出してきたのか、「Eroica」も素直に他の8曲と同じ演奏会のライブ録音を使えば、あるいはもっとマシだったのではないかと、その点も不満でした。(当時はその時の演奏に録音で大きな欠陥があったという事情を知らなかったので)
 それから何年か経ち、同じ「Eroica」の別の日の演奏がCD化されて聴いてみると、それらは十分他の8曲とも引けをとらない演奏で、どうやら「Eroica」が苦手というわけではなく、問題はこの演奏にあることがわかってきました。
 そもそも、この演奏のどこが良くなかったかといえば、まず、他の「Eroica」の演奏と較べてもテンポの変化がかなり不自然です。無理やり捻じ曲げているみたいです。
 さらに、それ以上に気になったのが音。いくら1940年とはいえ、スタジオ録音とは思えないぐらい高音ばかりキンキン聞こえる痩せた貧しい音だったのです。
 メンゲルベルクの「Eroica」は他にもっと良い演奏がいろいろ出たこともあり、この演奏はお蔵入りさせ、その後聴く事はほとんど無くなってしまいました。

 そんな状況が変わったのが、長い間、日本フォノグラムかPHILIPSからしか発売されいなかったこの演奏を独自にCD化しようという別の会社が現れたことです。
 無事に発売され、一応買ったものの、もとがもとだったので大して期待せず聴いたのですが、驚かされました。
 それまでのものとは比べ物にならないぐらい鮮明な音になっていたのです。
 細かいニュアンスも聴き取れるになり、やっとこの演奏の良さがわかってきました。
 このページ上の表の「発売及びCD番号」の欄にある、日本フォノグラム以外の、Pearl、オーパス蔵、ANDANTEの三つは、それぞれ復刻に多少違いはあるものの、どれも優秀です。個人的にはANDANTEのものが、響きを厚めにとってあり、最も気に入っています。(値段が非常に高いのがガンですが)
 もし、日本フォノグラム(PHILIPS)のCDだけ聴いて、この演奏はダメだと思った方は、ぜひその三つのうちどれかを聴いて頂きたいと思います。もしかしたら印象が一変するかもしれません。
 それでも評価が変わらなかった場合は……まあ、これはメンゲルベルクの演奏自体が合わなかったということでしょう。そーいう場合も往々にしてありますよ、ええ。いっそ思いっきり方向を変えてフルトヴェングラーやカラヤンやジンマンといった他の指揮者の演奏を試してみることをお奨めします(笑)

 さて、新しい復刻で評価が一変したこの演奏ですが、改めて聴くと、なかなか攻撃的な演奏です。
 速いテンポで飛ばして行き、途中で出てくるアクセントは軒並み強く、叩き付けるように入れられています。
 メンゲルベルクの他の「Eroica」に較べても、より直線的で、ほとんどトスカニーニかと言いたくなるほどの突進ぶりです。
 ただ、トスカニーニと違ってメンゲルベルクらしいのは、テンポ変化。音楽の境目では必ずといってよいぐらい大きくテンポを落とします。
 それまでトスカニーニ張りに突き進んでいただけに、急ブレーキ並みのテンポ変化で、聴いている方が前につんのめりそうになるほどです。日本フォノグラム盤を聴いた時の不自然さもこれが原因です。
 新しい盤で聴いてでさえ、かなり無理を感じるぐらい力ずくの曲げ方ですが、新盤の場合にはそこに至るまでの間に十分に力強さを聞き取ることができるため、これだけ強引にテンポを変えるのもパワーを感じさせる表現の一つかなと、と妙に納得させられます。
 ただ、前へ前へと進もうとする意識があまりに高すぎて、木管など、音の出だしが飛び出してしまっているところもあり、この辺は、もう少し気をつけて欲しかったものです。
 第1・3・4楽章が速いテンポで攻撃的なのはもちろんですが、「葬送行進曲」であるはずの第2楽章も基本的に同じ路線です。
 テンポこそそれほど速くはありませんが、一つ一つの音をハッキリと区切った力強い歌い方で、「葬送」にふさわしい厳粛や哀悼といった悲しみはほとんど感じられず、堂々とした厚い響きに支えられて、逆に興奮がどんどん高まっていきます。
 こういう歌い方は、おそらく多くの人の葬送行進曲に対してのイメージからはバックネット直撃の大暴投並みに外れていて、強い癖がありますが、わたしは結構好きですね。
 この演奏は、強引に力技で持ってきたりといろいろ粗もあり、メンゲルベルクの最上の演奏とは言えないでしょうが、他の「Eroica」の演奏よりもはるかに攻撃的で力を前面に押し出しているという点で、他には無い魅力を感じます。(2005/2/5)


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