指揮 | ウィレム・メンゲルベルク |
演奏 | アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 |
録音 | 1940年10月27日 |
販売及び CD番号 | TAHRA(TAH 401-402) |
わたしは、この演奏に関して、同じ1940年の4月14日の一連のチクルスの演奏と似ていたため、もしかしたら同じ演奏でないかと長らく疑っていました。 その点について掲示板に指摘があり、丁度良い機会でしたので、両者を突き合わせて聴き比べてみることにしました。 あくまでも、わたしが耳で聴き比べただけで、科学的な実証等を一切行なっているわけではありませんが、結論から書きますと、おそらくこのCDの演奏は、同年4月14日の演奏とは別の演奏だと思います。 その根拠は、雑音及び演奏ミスの場所です。 両方の演奏ともスタジオ録音ではなくライブ録音であるため、どうしても客席からの咳払い等のノイズがあったり、演奏者のミス(音を間違えたり、アンサンブルが合わなかったり)が発生する事があります。 このノイズやミスが、片方の演奏にはあるのに、もう片方の演奏にはない場合、その二つは別の演奏だと推測できるわけです。もちろんCD化する際に除去した可能性はあるのですが、逆にさっきノイズが無かった側の演奏にあったノイズで、もう一方のさっきノイズがあった演奏の方に無いという事も多々あり、単純にノイズ除去処理による違いとは思えません。 具体的な場所については、一つ一つ挙げていくときりがありませんので、もっとも違いが顕著に表れている部分を例とします。 それは第4楽章の冒頭で、テンポはアダージョと指定されているのですが、6小節目のアレグロとテンポ指定されている提示部に入る直前のフェルマータに向かって、少しずつテンポが遅くなっていくところです。 この部分は、テンポが一定ではなく動いているのにも関わらず、実はテンポの変わり方自体は4月14日の演奏でも10月27日のこの演奏でもほとんど差が無く、それはそれで驚異的なのですが、オーケストラの出す音の方には僅かですが明らかな違いがあります。 例えば、10月27日の演奏の方には、4小節目の全休止の部分に客席からの雑音があり、その次の三連符の六つの音の中で4番目の音を奏者の一人が間違えて弾いていますが、4月14日の演奏の方では、客席からの雑音も間違えた音もありません。 反対に、4月14日の演奏の方では、アレグロに入った直後に16分音符で駆け上がる音階に乱れがありますが、10月27日の方では、ちゃんと揃って演奏されています。 今は、第4楽章の冒頭の部分だけ詳しく書きましたが、他にも同様の部分が何箇所かみられます。 ノイズや演奏ミスの違いの他に、演奏時間の差もあります。 ただこれは、回転数の調整によって演奏時間に多少の長短が出る場合も有り得るため、決定的な証拠にはならないかもしれませんが、少なくとも参考にはなるでしょう。 第1・3・4楽章においては、全て4月14日の演奏の方が5〜15秒程度短いようです。聴いた感じでも4月14日の演奏の方がテンポが速く感じます。 一方、驚いたのは第2楽章で、なんと両方の演奏とも全く同じ秒数なのです。 わたしも同じ秒数であるからには、もしや第2楽章だけ同じ演奏ではないかと疑いました。 たしかに、テンポといい、歌い方といい、ポルタメントの掛け方といい、瓜二つです。 しかし、上記のノイズや演奏ミスの違いや、中間地点における僅かなタイム差から、おそらく非常に良く似ているだけで別の演奏だという結論に達しました。 あまりにも僅かな差なので、今一つ確信が持てないではいますが(笑) さて、実際に演奏を聴いた印象としては、まずは、メンゲルベルクの魅力が十分に感じられる推進力に溢れた演奏というのが前提としてあるのですが、4月14日の演奏と較べると、上記にも書いた通り幾分テンポが緩やかなだけに、テンポに安定感がある一方で勢いが弱いように感じます。 特に第1楽章では悪い点が出ています。 単に勢いが弱いだけではなく、安定感まで欠いています。 メンゲルベルクがテンポを色々動かそうとしているのですが、オーケストラが上手く乗って来れず、テンポの変化が不自然で唐突な印象を受けます。 もちろん不自然だからといって、必ずしも悪いわけではなく、場合によっては逆に劇的な効果を生む場合も多いのですが、この演奏の場合はどうも不発気味で、興奮を掻き立てるというところまで行っていません。 一方、4月14日の演奏には音楽に流れがあり、自然な盛り上がりがあります。この演奏でも、部分部分を見ると、それぞれは推進力があり流れを感じさせるのですが、繋がりが良くなく、ブツブツと分断されていて、全体としては流れが弱くなってしまっているのです。 逆に、4月14日の演奏よりも、良いと思ったのが第4楽章です。 4月14日の演奏はテンポが速い分スピード感はより強く感じたのですが、どうもオーケストラがそのスピードに乗り切れず、足がもつれてしまってつんのめっているような印象も受けていたのですが、この演奏では若干テンポが緩やかになった分、オーケストラの方にも余裕が生まれ、スピード感と共に安定感にも溢れる演奏になっています。 提示部以降の速い部分は、アレグロ・モルト・エ・ヴィヴァーチェというテンポ指示の性格上、テンポが緩やか……といってもそれでもかなり速いのですが、オーケストラには乱れが無く細かいパッセージまでピッタリ揃っているのには本当に感心します。 メンゲルベルクがテンポをほとんど動かしていないため、音楽に心地よいテンポ感とスピード感があり、なにより推進力が感じられます。 さらに、一つ一つの音には、それがどんなにピアノの小さな音であってもエネルギーが詰まっていて、それが次々と弾けていくような勢いがあり、聴いていると興奮して思わず身を乗り出しそうになるほどです。 そうそう、音質という重要な点を忘れていました。 あくまでもわたしの使っている再生装置で聴いた限りですが、当時のライブ録音としては、そう悪くない方だと思います。 ただ、4月14日の録音の方が、鮮明さという点では、数段上のようです。 単独で聴いている分にはそれほど気にならないのですが、4月14日の録音と較べて聴いてしまうと、どうしても当録音の方は、一枚ベールをかぶせたかのように音がぼやけて聞こえます。(2002/8/16) |