L.v.ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 <皇帝>

指揮ジョージ・セル
独奏ピアノ:エミール・ギレリス
演奏クリーブランド管弦楽団
録音1968年4〜5月
販売EMI
CD番号7243 5 69509 2 4


このCDを聴いた感想です。


 この演奏を聴いて、最も印象に残ったのが、ソリストのギレリスの音色の透明さです。
 あまりにも澄んだ音色のため、フォルテの部分では、かなり力強く弾いているのにも関わらず、出てくる音からはあまり迫力を感じさせないほどです。
 この『迫力を感じさせない』というのは、決して悪い意味ではなく、フォルテ部分でも渾身を込めたかのような人間臭いドロドロとしたものがなく、肩の力が抜けて、天上界のように浮世離れした美しさがあり、もちろん聴く人の好き好きはあるのでしょうが、わたしはこういう演奏は好きです。
 とにかく初めてこの演奏を聴いた時、『ああ、ピアノってこんなに澄んだ音が出せるものなんだ』と感心したのをよく覚えています。
 この音色の透明感は、全曲通して常に感じられるのですが、特筆しておきたいのが第3楽章です。第3楽章の第57小節です。
 第3楽章のピアノパートの中で、フレーズの最後のキメで、何重かに音が重なった和音をハープのアルペジオのように『パララン』と崩して弾く部分があるのですが(例:楽譜(1)の赤い丸で囲んだ音符)、ここの弾き方が、ギレリスは非常に美しいのです。
 音によって強さや大きさに不揃いが無いだけではなく、クリームのように柔らかく、手を触れるのも憚られるような完璧さがあります。
 わたしには、この音だけで『このCDの元は十分取れた!』と思えてくるほどでした。

 一方、伴奏の方は、既に20年以上もコンビを組んできたセルとクリーブランド管だけあって、抜群の安定感があります。
 どの一瞬をとっても、ピタッと揃っていますし、テンポも決してガチガチに杓子定規ではなく、柔軟に伸び縮みし、ソロが自由に動けるだけの余裕があります。
 ただ難を言えば、音色に潤いが少なく、どちらかというと乾燥した音ではあるのですが、その分よく締まっていて、密度の濃さを感じさせます。
 さらに、低音楽器に至るまで、各楽器の動きがハッキリと手に取るかのようにクリアに聞こえるのは、『さすが、セル&クリーブランド管だ』と唸らせられます。(2002/8/9)