L.v.ベートーヴェン ピアノ協奏曲第4番 ト長調

指揮ディーン・ディクソン
独奏ピアノ:クララ・ハスキル
演奏RIAS交響楽団
録音1954年11月24日
カップリングシューマン 色とりどりの小品 他
「Inédits HASKIL」の一部
発売TAHRA
CD番号TAH 389/390


このCDを聴いた感想です。


 指揮をしているディーン・ディクソンは、フランクフルト放送響(現hr交響楽団)の常任指揮者を1961年から1974年までの14年間にわたって務め、しかも当時としては珍しい黒人であるなど、話題性という点では十分な条件を備えているはずです。
 しかし、残念ながら知名度はお世辞にも高いとは言えません。
 長く常任指揮者だったフランクフルト放送響にしても、実力が広く知れ渡ったのは後任者にエリアフ・インバルが就任してからで、ディクソンの時代は年数が長い割にはほとんど知られていません。
 なにしろ録音自体が少なく、実力がどの程度だったかも全くわかりません。インバルの時代に高いレベルだったのはわかるのですが、高くなったのがインバルが就任してからなのか、それともそれ以前からレベルは高かったのかはわからないのです。
 そもそもディクソン自身の録音すらほとんどありません。
 わたしも、上記の経歴を見てその珍しさから名前は覚えていて、折に触れて探し続けていながら、このCDで初めてお目にかかったぐらいです。よほど少ないか、あるいは録音はあってもほとんど復刻されていないのではないかと思います。
 このCDにしても、あくまでもメインはクララ・ハスキルの方で、ハスキルの演奏をいろいろ集めた中で、たまたまベートーヴェンの伴奏がディクソンだったというだけなのです。
 ただ、わたしは、メインのハスキルには申し訳ないのですが、完全にディクソン目当てでこのCDを購入させて頂きました。ええ。
 ということで、夢にまで見たディクソンの伴奏演奏です。
 時期的にはディクソンがまだ40歳になる直前という若い頃の演奏で(といっても、ディクソンは61歳という若さで亡くなっていますが)、まだフランクフルト放送響の常任指揮者になる前、前年にエーテボリ響の指揮者に就任しています。
 演奏も、若さが表れているのか、なかなかパワーのある演奏です。
 弦楽器を主体にして、フォルテではスピードを持たせてかなり強く弾かせています。スパッとしたキレを感じます。
 しかも強くといっても音の頭を硬くガツンとぶつけるのではなく、アタックはむしろ柔らかめで、そこから重みを載せるようにグンと強く踏み込んでパワーを出しています。
 この柔らかさもあって、細部までていねいに仕上げられている印象を受けました。
 さらにもう一つ特徴的なのがクレッシェンドです。
 強弱のダイナミクスは結構動かすタイプのようで、あちこちに大小のクレッシェンドが登場するのですが、そのクレッシェンドの持って行き方が、ギリギリまで抑えておいて最後近くで一気に持ち上げているのです。
 生き生きとして劇的でもあるのは良いとしても、その分、どっしりとした安定感がなくなり、スケールはどうしても小さくなっています。
 わたし自身はかなり好きなタイプの演奏ですが、ベートーヴェンということを考えると、聴いていてそのあたりが気になる人も結構いるのではないかと思いました。
 一方、ソロのハスキルについては、音の美しさと優しい歌わせ方が強く印象に残りました。
 透明感というより白い音で、それが柔らかいタッチでフワッと響きが広がっていくのを聴いていると、とても心が安らかになります。
 弱音での美しさはもちろんのこと、強音でも決して荒くならず、むしろあまり力を入れて弾いているようなタッチに聞こえないのに、音は強音らしくよく通ってきます。
 まあ、ミスタッチは少なからずありますが、ライブ録音ということを考えれば、十分に許容範囲でしょう。
 ハスキル、ディクソン共に他の演奏を聴きたくなってきます。
 ハスキルについては幸い著名な演奏家ですから録音には事欠きませんが、問題は、ディクソンの方です。わたしはこの演奏以外に一つも見たことがありません。
 一応、録音自体は少ないながらも無くは無いようなので、復刻されることを気長に待つしかなさそうです。(2008/4/26)


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