L.v.ベートーヴェン 「エグモント」序曲

指揮ジョージ・セル
演奏ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
録音1965年8月2日
カップリングブルックナー 交響曲第3番 他
発売ANDANTE
CD番号AN2180


このCDを聴いた感想です。


 セルのエグモントは、多くは序曲だけですが、劇音楽も含めて録音したものもあり、スタジオ録音もライブ録音もそれぞれ複数回以上、合計すると5〜6種類はあるようです。
 わたしが聞いた事があるのはその中の3種類だけで、一つは、おそらく最も代表的なクリーブランド管とのスタジオ録音(1966年)、もう一つは、定評のあるウィーン・フィルとのザルツブルク音楽祭でのライブ録音(1969年)、そして三つ目が今回取り上げるドレスデン国立歌劇場管とのやはりザルツブルク音楽祭でのライブ録音(1965年)です。
 正直に言って、人にお勧めするとしたらクリーブランド管とのスタジオ録音かウィーン・フィルとのライブの方でしょう。
 どちらも音はステレオですし、クリーブランド管の方は、スタジオ録音らしい緻密さに加えてスタジオらしからぬ力強さと勢いがありますし、ウィーン・フィルの方は、緻密さではクリーブランド管とのスタジオ録音には少し及ばないまでも十分水準以上ですし、迫力は大きく上回っています。
 その二つに較べると、ドレスデン国立歌劇場管との演奏は、音はモノラルですし、特に細部でのアンサンブルという点では、クリーブランド管よりはもちろん、同じライブのウィーン・フィルと較べても少し及ばないのではないかと思います。
 クリーブランド管とウィーン・フィルの演奏をメジャー・リーグとしたら、ドレスデン国立歌劇場管との演奏はさしづめ3Aといったところですが、わたしはこの一見すると一ランク落ちに見えるドレスデンの演奏をけっこう好んでいます。
 その理由の一つには、オーケストラの響きがあります。
 まずウィーン・フィルですが、これが意外と明るめでしかも迫力もあり、一言で言えば「豪華絢爛」と言い表せられるような響きです。またクリーブランド管の方は、アンサンブルが細部まで揃っていてさらに線が太いため、彫りが深く、なんだか威圧感を感じるのです。
 一方、ドレスデン国立歌劇場管の響きは、少しくすんでいてしかも重心が低く、落ち着いているというよりむしろ沈んでいます。モノラルということもあって、響きに広がりが無く、逆にぎゅっと凝縮しているようで、じっと悲しみに耐えて精一杯がんばっているような雰囲気があり、そこに惹かれます。
 この録音状態については、モノラルといっても1965年の演奏ですから雑音や音が鮮明かといった点では、実はそう悪いものではありません。聞くにはほとんど支障が無いレベルです。ただ、響きに広がりが無いのは、良くも悪くもモノラルの宿命です。わたしはこの演奏ではそこを良さととらえたのですが、まあ一般的にはメリットではないでしょう。
 さらに、もう一つ印象に残ったのが、ここぞというポイントでの迫力です。
 上にも書きましたが、この演奏は縦の線といったアンサンブルでは、ところどころ乱れている部分があります。一発物のライブということを考えるとそれほど悪いものではなく、むしろ合っている方なのですが、なにしろ較べる相手が「セルの楽器」クリーブランド管と「天下の」ウィーン・フィルですからこれは分が悪く、どうしてもアラが目に付いてしまいます。
 しかし、ちょくちょく登場する、4拍目と次の小節の1拍目でフォルテの4分音符が連続する部分などやスフォルツァンドなどのキメとなるところだけは緊張感のある音でバシッと合わせています。
 他の部分とは明らかに差をつけ、そこが曲のポイントであることを強調しているのです
 実は、その集中した部分の音も、他の二つの演奏の同じ部分の音とそうは違わないのですが、他の二つは地の部分からレベルが高いため、ポイントとそうでない部分の差があまりつかず、ドレスデン国立歌劇場管の場合は、地の部分が少し落ちるため、ポイントがより明確に聞き手に伝わってくるのです。
 まあ、百本のバラの中の一本のバラは目立たないけど、百本のスミレの中の一本のバラは、同じバラでも引き立って見えるということでしょうかね。(2006/8/12)


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