L.v.ベートーヴェン 「エグモント」序曲

指揮ウィレム・メンゲルベルク
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1926年5月
発売及び
CD番号
Pearl(GEMM CDS 9070)
東芝EMI(TOCE-8191〜99)


このCDを聴いた感想です。


 メンゲルベルクの遺した「エグモント」序曲の録音が5種類というのは、同じくベートーヴェンの交響曲第3番と並んで、最多種類になります。交響曲第3番の方は、部分的に欠落した録音もありますから、全曲という点では、この曲が最も多く残っているという事になるでしょう。(もっとも、「エグモント」序曲と交響曲第3番では、曲の長さが全く違いますが)
 以前にも書きましたが、「エグモント」序曲の三つの録音は、古い方の三つがスタジオ録音で、新しい方の二つがライブ録音です。
 また、オーケストラの方も、1・3・5回目がコンセルトヘボウ管で、2回目がニューヨーク・フィル響、4回目がウィーン・フィルと、なかなかバラエティに富んでいます。
 録音年代は、古い方の三つが、ほぼ5年の間に録音されていて、3回目と4回目の間が10年以上離れているのに、4回目と5回目との間はほぼ半年と、少々偏りがありますが、それでも、1回目が1926年で5回目が1943年と、だいたいメンゲルベルクの録音キャリアの全域をカバーしているため、比較して聴くには最適といえるでしょう。
 さて、今回取り上げるのは、5種類の録音の中でも最初の、1926年のスタジオ録音です。
 よく考えたら、この録音は、メンゲルベルクがコンセルトヘボウ管と行なった最初の録音(それ以前は全てニューヨーク・フィル)の一つにもあたりますね。
 最も若い頃の録音だけあって、他の4種類に較べると、テンポ変化は少なく、速めで一定のテンポを保ち、直線的に音楽を進めて行きます。
 当然、演奏時間も5種類の中で最短です。
 音も短くキレがあり、どんどん前に進んで行こうという推進力も最も強く感じられます。
 ただ、逆に、前に突き進もうという意識が強すぎて、音の出が待ちきれずに先走って前に突っ込んでしまう場面もしばしば見られました。
 まあ、この前に突っ込んでしまうというのは、半分、メンゲルベルクの癖みたいなもので、この曲に限らず他の曲でも、しかも結構晩年に近い時期まで表れていたので、それほど珍しくはないのですが。
 その一方で、ヴァイオリンで音がポンと跳ぶときに、ポルタメントをかけている部分も目立ちます。
 こういうポルタメントは、実は、後の録音よりも、この最初の録音の方が頻繁にかけられています。
 テンポを伸び縮みさせたりとかビブラートを強くかけたりといったメロディーの歌いこみや表情は、後の録音の方が濃く、この録音はずっと淡白でむしろ爽やかな印象を受けるぐらいなのですが、なぜかポルタメントだけは、強く目立たせています。
 このポルタメントによって、メロディーの表情が深くなって、華が感じられるのは良いのですが、その分、清々しい雰囲気は弱くなります。
 もっとも、その辺りが、メンゲルベルクらしいといえばメンゲルベルクらしいのでしょう。
 また、響きの方は、後の録音ほどではないにしても、それでも十分重めです。
 ベートーヴェンだからというのもあるのでしょうが、重心の低いどっしりとした響きで、音楽が長調になっても、抜けるようなカラッとした明るさではなく、もっと足を地につけた、地熱を感じさせるような熱気のある明るさです。
 これで録音も良かったらなお良いのでしょうが、さすがに最も古いだけあって、多くは望めません。
 1920年代の録音にしては、まだ良い方だとは思うのですが、それでもまともに聞こえるのは弦楽器くらいで、管楽器、特に金管楽器は完全に埋没していますし、細かい動きもほとんど聴き取る事ができません。
 やはり5種類の中で、最も聴くのに苦労する録音だと思います。(2003/8/30)