L.v.ベートーヴェン 「エグモント」序曲

指揮ウィレム・メンゲルベルク
演奏ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音1942年8月16日
販売及び
CD番号
TAHRA(TAH 401-402)


このCDを聴いた感想です。


 メンゲルベルクとウィーン・フィルとは不思議と縁の薄い関係です。
 この演奏は、1942年の夏のザルツブルク音楽祭での共演ですが、共演したのはこの演奏があった16日と13日の二日間だけ。通常のウィーンでの定期演奏会にしても、わたしの記憶している限りでは二回しか指揮していないはずです。
 1940年代といえば、ナチスドイツの占領下におかれている時代ですので、ブルーノ・ワルターのようなユダヤ人の指揮者は全て追放され、特に名のある指揮者はかなり減っている頃です。大黒柱のフルトヴェングラーこそまだ残っているものの、メンゲルベルクのように著名でかつナチスに協力的(……とまで行かなくても、少なくとも公然と反抗はしていませんでしたので)な指揮者は貴重だと思うのですが、なぜかほとんど共演していません。
 ウィーン・フィルがメンゲルベルクを嫌ったか、あるいはその逆か、はたまた双方ともなのか、それとも単にスケジュールが合わなかっただけなのかはわかりませんが、いずれにしろちょっと理由が知りたいものです。

 とまあ、前振りが長くなってしまいましたが、話を演奏の方に移します。
 この演奏、ウィーン・フィルとの貴重な録音なのですが、やはり滅多に共演しないだけあって、特に頭の方は息が合わない点があちこちに出てきています。後半になってくると大分慣れてくるのですが、音楽の変わり目で、ちょっと間を取って次の音楽に入る部分は、どうしても少しあぶなっかしい感じがします。
 メンゲルベルク自身も、どうやらそれは感じていたらしく、コンセルトヘボウ管と演奏するときと較べて、テンポ変化や間の取り方を少し控えめにしているのですが、さすがに『ここだけは!』という部分だけは、演奏が少しあぶなくなるのを覚悟の上で、思いっきり自分の音楽を押し通しています。
 その甲斐もあって、演奏からはメンゲルベルクらしさが十分に感じられます。

 実は、この演奏の約8ヶ月後にコンセルトヘボウ管を指揮した、同じ「エグモント」序曲の録音が残っていまして、それと聴き比べると、ウィーン・フィルとコンセルトヘボウ管とでどう違うかがよく分かります。
 上記に書いた、揃う揃わないは『慣れ』の差があるので別としますと、一番目立つ違いは一音一音の長さです。
 コンセルトヘボウ管の場合は、例えばスタッカートなんか出てくると、本当に短く丸く切って、音楽のキレの良さが強調されているのに対して、ウィーン・フィルの方は、スタッカートでもあまり音を短く切らず(もちろんスタッカートの範囲内での話です)、メロディーを歌わせる方に重点がおかれています。
 この特長が最も感じられるのが、木管が短いフレーズを繋げてメロディーにしていくような部分で、コンセルトヘボウ管の演奏では木管の反応が早すぎて、メロディーが少しつんのめっているように聞こえるのですが、ウィーン・フィルの方では、木管がフレーズの最後まで音を保ってしっかりと歌っているので、繋がりがとてもスムーズで、ピッタリとはまっています。
 一方、全体的なフォルテとピアノのダイナミクスの差という点では、録音のせいもあるのでしょうが、コンセルトヘボウ管の方が幅があり、迫力も感じられます。
 ただ、その代わりといってはなんですが、コンセルトヘボウ管の演奏よりも、はっきりと気に入った点が一点あります。
 それはトランペットの音色です。
 この曲の最後の方には、トランペットにファンファーレみたいな動きが多いのですが、そんな動きによく合った華やかな音色なのです。
 コンセルトヘボウ管の少し重めの音色も悪くはないのですが、この曲であれば、わたしはウィーン・フィルのような華やかな音色の方が好きです。

 録音の方は、戦時中の貴重なライブ録音ということもあり、聴く前はかなり覚悟していたのですが、全然そんな事はなく、むしろ聴き易い方でした。
 これもTAHRAの優秀な復刻技術のおかげかもしれませんが、雑音も無く、当時としてはなかなか鮮明な音だと思います。

 この感想の最初に、メンゲルベルクはザルツブルク音楽祭で二日間指揮をしたと書きましたが、実はその曲目は以下の通りでした。

 13日
 ウェーバー : 「オイリアンテ」序曲
 ブラームス : ハイドンの主題による変奏曲
 R.シュトラウス : 交響詩「英雄の生涯」

 16日
 ベートーヴェン : 「エグモント」序曲
 ベートーヴェン : ピアノ協奏曲第5番<皇帝>(独奏:コル・デ・グルート)
 ベートーヴェン : 交響曲第7番

 しかし、この中で録音として残っているのは、両日の前プロの「エグモント」序曲と「オイリアンテ」序曲だけなのです。
 他の曲の録音は、どうも大戦中に失われてしまったらしく残念な事です。
 どの曲も涎が出そうなくらい聴いてみたい演奏ばかりなのですが、特にブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」が失われたのは痛恨です。
 他の曲はまだしも、この曲だけは他に演奏が全く無く、非常に貴重な録音だったのですが……
 本当に残念でなりません。(2002/6/21)