L.v.ベートーヴェン 「コリオラン」序曲

指揮ウィレム・メンゲルベルク
演奏ニューヨーク・フィルハーモニック
録音1922年4月11日
発売及び
CD番号
BIDDULPH(WHL 025-26)
GreenDoor(GDCS-0012)


このCDを聴いた感想です。


 この演奏は、ベートーヴェンの交響曲第5番第1楽章と並んでメンゲルベルクの最初の録音の一つにあたります。
 ということは、逆に言えば最も古い録音、つまり、録音状態の厳しい演奏ということになります。
 録音方法も当然まだ機械録音の頃で、オーケストラ全体の響きなんてとても捉えきれず、個々の楽器の音を録音するのに精一杯といったところです。
 メンゲルベルクは、「コリオラン」序曲を、約4年後の1926年に今度はコンセルトヘボウ管と再録音していまして(後にもう一度録音している)、その1926年の録音も、電気録音初期の頃だけあって相当劣悪な音質なのですが、さすがに機械録音と電気録音の差は大きく、1926年の方は、ニューヨーク・フィルとの録音のたった4年後の録音とは思えないほど、遥かに鮮明な音質に聞こえます。
 特に最も差が出ているのが、音の拡がりです。
 実は、個々の楽器の音だけを取りだして較べてみれば、ニューヨーク・フィルの方だって再録音の音質とそれほど遜色の無いぐらい鮮明に聞こえるのですが、いかんせんそれらが一つにまとまっていなくて、それぞれがバラバラに耳に届いて来るのです。
 これで残響が全く無いものですから、個々の音は聞こえても響きにならないため音が拡がらず、それぞれの楽器に近い狭い範囲で止まってしまっています。
 さらに、この曲には冒頭から、全合奏のフォルティッシモやスフォルツァンドで『ザンッ!』という音型が繰り返し登場しますが、これも音が全部入りきっていないため和音になっておらず、グシャっという響きになっています。ただ、響きは鮮明でなくてもアタックが硬くつけられている事はよく伝わって来ます。そのため、貧しい響きにかかわらず迫力は十分に感じる事ができます。
 また、さきほど個々の楽器の音は結構鮮明と書きましたが、中でも弦楽器の細かい動きはかなり生々しい音質です。
 曲の中ほど辺りから、チェロとビオラを中心に、八分音符で「タタタタ・タタタタ」という分散和音のような動きを延々続けていますが、この音が鮮明にしかも妙に強調されて録音されています。
 まるでこの動きの方が主旋律で、ヴァイオリン等が演奏しているメロディーの方が伴奏のような扱いですが、強調されているだけあって、聴き応えがあります。
 音を短く切ったキレのある音で、音楽をどんどん前に進めていくような推進力が感じられます。これだったら確かに強調する意義があると思わず納得してしまいました。

 以前、ベートーヴェンの第5番でも同じ事がありましたが、この演奏も、音を補強するために楽譜に無い管楽器を加えているようです。
 聴いた感じでは、チューバは確実に入っているようですし、もしかしたらトロンボーンも加わっているのかもしれません。また元々編成に入っている管打楽器にしても、楽譜に無い部分で演奏している事もあるようです。

 それにしても、メンゲルベルクの「コリオラン」序曲の録音は、全部で三種類あるのですが(当録音、1926年、1931年)、この演奏が最も若い頃の演奏なので、当然一番速い演奏かと思いきや、実は、反対に三つの録音の中で、最も演奏時間の長い演奏なんです。
 ベースとなるテンポはそれほど差があるわけではないのですが、最後に音がピアノになるところで大きくテンポを落としているために差が出たようです。
 まあ、そもそも最初の録音と最後の録音とで10年も間隔が空いていませんし、最後の録音にしても1931年ですから、メンゲルベルクの録音の中では、むしろ初期の頃といってもおかしくなく、もとからそんなに差が出るようなものでは無いのでしょう。(2003/2/15)


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