L.ノーノ Sara dolce tacere

指揮ジョン・オールディス
演奏ジョン・オールディス合唱団
録音1979年6月6日
カップリングブリテン ねじの回転 他
「FIFTY YEARS HOLLAND FESTIVAL A DUTCH MIRACLE」の一部
発売GLOBE
CD番号GL0 6900


このCDを聴いた感想です。


 ノーノといったら、いわゆる現代音楽の作曲家です。しかも主な手法が12音技法とくれば、これはもう縁が無い音楽の代表選手といっても過言ではありません。
 このCDにしても、わざわざノーノを聴こうと思って買ったわけでは全然無いのです。たまたま「オランダ音楽祭50年のハイライト」という6枚組みのCDを見つけ、その中に入っている、普段手に入りにくいオランダの作曲家たちの作品と、アムステルダム・コンセルトヘボウ管をいろいろな客演指揮者が指揮した演奏を目当てが買ってみました。そしたら、「20世紀の国際的な作曲家」というグループの1枚があり、ノーノはその中にたまたま入っていただけです。(ちなみにコンセルトヘボウ管を客演指揮者が指揮した演奏は、ほとんどがすでに他のレーベルからCD化されたことがある演奏で、あまり新鮮さはありませんでした)
 12音技法にはそれほど興味が無かったものの、そのまま聴かずにおくのももったいないですし、せっかく入っていたんだからと気乗りしないままノーノや他の作曲家(ベリオやクセナキスなども入っていました)も聴くことにしました。
 ちなみに、この曲のタイトル「Sara dolce tacere」ですが、邦題で一般的なものはまだ無いようです。そもそも曲自体が有名なものではありませんし。ただ、だいたい「それは優しい沈黙」とかそんな意味のようです。それにしても抽象的で何のことやらわかりませんし、ただ難解なだけの曲じゃないかと半ば諦めて聴き始めました。
 ところが、聴いてびっくり、これが意外と面白かったのです。
 ノーノ以外の作曲家も思った以上に面白かったのですが、ノーノが一番印象に残りました。
 わたしは楽典を正式に勉強したわけではないので推測ですが、たぶん12音技法ど真ん中です。多くの人が想像するであろういわゆる現代音楽と呼ばれる類の曲調です。ただ、オーケストラではなく、合唱のみ、いわゆるアカペラの曲で、歌詞もCDのリーフレットを読む限りでは(これも英文なのでだいぶ当てずっぽですが)、チェーザレ・パヴェーゼという20世紀前半のイタリアの詩人の書いた「La Terra e la Morte(大地の死)」から取られているらしいのですが、聴いていても歌詞はよく聞き取れません。というのも、実はメロディーらしいメロディーはなく、そもそも各声部が、何か声を出すと、後はピアノの打鍵のように消えていくのみで、他の音に移動することすらほとんどありません。一音出すと順番に他の声部が違う高さで入ってきて、それが音の動きになっているのです。「ベルトーン」という演奏方法をご存知ならそれがそのものズバリで、要はのど自慢で使われているチャイム(チューブラーベル)のように、音の高さが一定で変えられないけど、いくつもの高さがある音を、順番に鳴らしていくことでメロディーにする演奏方法です(考えてみれば、ピアノも同じですね)。
 といっても、いくら順番に音が鳴っても、その音の鳴り方は、ほとんどメロディーには聞こえません。ランダムに点滅するネオンサインのように、音は次々から次へと出てきますが、まったくバラバラで、法則性があるとはとても思えず、ましてや普通に思い浮かべるようなメロディーではありません。
 だったら、そんなののどこが面白いんだと思われるでしょうが、ランダムに点滅しているネオンサインがランダムが故に点灯にバラツキが出て、結果として一度に多く光ったり、ちょっとしか光らなかったりと波ができるのと同様に、音の高低と密度がいろいろ変わることで、音楽にメリハリがついているのです(もちろん実際にはランダムではなく楽譜に書かれているのですから、その辺りも計算の上のことでしょうが)。しかも、メロディーのある曲ではよくある、音楽が盛り上がってまた下がっていくといった、予測できる変化ではなく、常に予測できない変化が、聴く度に新鮮な驚きを与えてくれます。
 さらに、意外と重要だったのが合唱のみだったということです。
 音は、順番に出てきてメロディーっぽい動きを作るだけでなく、同時に出てきて和音を作ることもあります。当然不協和音上等全開バリバリの世界ですが、オーケストラでは不協和音を演奏すると、音がぶつかるためどうしてもどことなく嫌な感じがします。まあ、だからこそ協和音が生きてくるわけですが。しかし、アカペラの場合、というかこの演奏の場合、ぶつかっているのに嫌な感じはあまりせず、むしろ不思議な感じ、言ってしまえば、神秘的な感じがします。協和音の時よりもむしろ深みが出ています。
 もしかしたら、オーケストラだからとか合唱だからではなく、単に合唱団が素晴らしかっただけかもしれません。演奏しているジョン・オールディス合唱団は、現代曲での活動はあまり知らないものの、ヘンデルのメサイアなどで、よく合唱を担当しているのを見かけます。その時も良い合唱で、それで名前を覚えていたくらいです。今回も、以前の記憶どおり、澄んだ響きながら、アタックの強さも備えており、さすがと思わせるものでした。
 この曲はたしかに現代曲で、今まで聴き慣れてきたロマン派辺りまでの音楽とは明らかに異なります。昔の時代の曲を聴く時のような楽しみ方を探しても出て来ません。しかし、全く別の視点から曲を聴くと、今まで知らなかった楽しみ方を発見できました。本当は、この手の曲は、アカデミックな観点から見ても重要なのでしょうが、残念ながらその辺りは疎いのでよくわかりません。しかし、そんなことに気が付かなくても、楽しめたから良しとしましょう。(2010/4/17)


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