近衛秀麿(編曲) 越天楽

指揮沼尻竜典
演奏東京都交響楽団
録音2000年7月25・27日
カップリング外山雄三 管弦楽のためのラプソディ 他
日本管弦楽名曲集の一部
発売アイヴィー(NAXOS)
CD番号8.555071J


このCDを聴いた感想です。


『越天楽』という曲は、もちろん近衛秀麿の作曲ではありませんし、そもそもオーケストラの曲ではありません。
 ご存知の方も多いと思いますが、この曲は、もともとは、竜笛(りゅうてき)や篳篥(ひちりき)や笙(しょう)等からなる雅楽の曲で、その歴史は奈良時代ぐらいまで遡る事が出来ます。
 それを、近衛秀麿は現代オーケストラに演奏させようとしたのです。
 竜笛をフルートに、篳篥をオーボエに、笙をヴァイオリン合奏に、鞨鼓(かっこ)を小太鼓に、といった風に割り当てています。
 で、聴いた感想ですが……

 意外とそれらしく聞こえるものですね。
 なんか凄くもっともらしく聞こえます。

 わたしは、たまたま本物の雅楽が演奏したオリジナルの『越天楽』のCDも持っていて、それと聴き較べたのですが、確かに楽器の違いは大きな違いです。
 それに音楽の作り方が、やはりどことなく西洋風なのです。
 できるだけ雅楽風に歌わせようとしているのはわかるのですが、どうしても小節の頭で楽器同士がピタリと揃ってしまい、一定の間隔の小節の存在を感じさせてしまうのです。

 しかし、それだけの違いがあってもなお、雰囲気自体は驚くほど良く似ています。
 そう感じた一番大きな理由はおそらくテンポ感だと思います。
 小節の中でのテンポの伸び縮みや、小節から小節への移り変わるテンポは、普通のクラシックではおよそ考えられないぐらい大きく変化しているのですが、演奏者は全く無理が無く、ごく当たり前のように、微妙な揺れ具合まで再現しています。
 やはり、よほど日本人に合ったテンポなんでしょう。

 ただ、西洋のオーケストラは雅楽ではありません。いくら再現しても雅楽とは顕然たる違いがあります。
 でも、わたしはそれはそれで構わないと思います。
 たしかにオーケストラは雅楽にはなれませんが、オーケストラの越天楽ならではの一種独特の異様な雰囲気は、雅楽には無い新たな魅力があります。
 わたしは、こういう雰囲気も好きなのです。


 ここで、一つ、雅楽についてちょっとだけ解説を書いておきます。
 興味を持たれた方は、どうぞご覧ください。
 そもそも雅楽には『舞い』が入るものと、『舞い』が入らない器楽のみの曲があります。
『越天楽』は、器楽のみの曲で、これらは『管絃(かんげん)』と呼ばれています。一方、舞いが入る方の曲は『舞楽(ぶがく)』と呼ばれています。
 実は、この二種類は、曲の違いではなく、どちらかというと演奏形態の違いで、同じ曲でも『管絃』と『舞楽』の両方があり、その違いは、単に舞いが入る入らないだけではなく、規模等も少し異なっています。
 なぜ一つの曲なのに演奏形態が分かれているかというと、一言で言えば、『屋外向け』と『室内向け』の違いです。
 当時(平安時代等)の舞いは屋外で行なわれていたため、舞楽の方は外で演奏されていました。
 そのため、演奏も屋外に見合うように音量も大きくなり、細かいニュアンスをつけても聴き取り難いため、それよりも、メリハリをつけてキレ良く演奏することの方が優先されました。また、琵琶や筝のような弦楽器が入らず、代わりに大太鼓(だだいこ)と大鉦鼓(おおしょうこ)といった、大音量の打楽器が加わります。
 一方、管絃は、舞楽が舞いから離れて、単独で屋内で演奏するようになったもので、屋内での演奏を目的としているため、舞楽ほどの音量は必要なく、細かいニュアンスを聴かせる事ができるようになりました。
 まあ、ビッグバンドと室内オーケストラぐらいの違いみたいなものではないでしょうか。(……わたしも、専門家ではないのでかなり怪しい知識ですが(汗))

 ついでに、『越天楽』という曲は、調によって『○○調の越天楽』と呼ばれています。
 単純に同じ曲を移調しているだけなのですが、主音の音によって三種類知られています。
『平調(ひょうぢょう)(in E)』、『黄鐘調(おうしきちょう)(in A)』、『盤渉調(ばんしきちょう)(in H)』の三種類で、現在では、ほとんどの場合はホ長調(とは本当は呼んではいけないのでしょうが)の平調で演奏されています。
 本当は、平安時代には、どちらかというと盤渉調の方が流行っていたらしいのですが……
 まあ、それはそれとしても、実は、今回取り上げた近衛秀麿の編曲は、平調ではありません。
 いや、それどころか他の二つの調子でも無く、何故か平調の一音下のニ長調(in D)なのです。
 一応、同じ言い方をすれば『壱越調(いちこつちょう)』という調になるようですが。
 真っ先に考えられるのは、近衛秀麿が編曲する際に、一音下げたという可能性ですが、何故かわたしの手許にある原曲の楽譜もニ長調で書かれていまして、あながち近衛秀麿の独断とは限らないのです。
 ただ、わたしの持っている原曲の演奏はたしかにホ長調で演奏していますので、楽譜の方が正しいとも言い切れず、終いにはどっちが正しいのやらわからなくなってしまいました。
 うーん……どれが正しい情報なんでしょうかね?(2002/3/8)


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