J.シベリウス 交響曲第3番 ハ長調

指揮パーヴォ・ベルグルンド
演奏ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団
録音1987年8月
カップリングシベリウス 交響曲第4番 他
「シベリウス交響曲・交響詩全集」の一部
発売EMI
CD番号5 74485 2


このCDを聴いた感想です。


 シベリウスの交響曲というと、冬の冷たい空気を思い起こさせるような独特な雰囲気があり、それが魅力である一方、慣れていない人にとっては聴き慣れている他の作曲家の曲とは勝手が違い、少々とっつきにくい面もあるのではないでしょうか。もしかしたら他の人はそうではないのかもしれませんが、少なくともわたしにとってはそうでした。特に個性がより強く出て来る第4番以降の曲は、なかなか捉えどころが無く、今では好きな第5番も、初めて聴いた時、これは普段あまり実演を聴きに行かないわたしにしては珍しく演奏会で聴いたのですが、恥ずかしながら思いっきり寝てしまったぐらいです。逆に前半の3曲は、まだ個性が少し薄いこともあり、だいぶ馴染みやすいのではないかと思います。特に第2番は、おそらく全7曲の中でも最も人気の高い曲でしょうが、やはりシベリウスに馴染みの薄い人でも親しみやすいというのも大きいのでしょう。第1番も、第2番とよくセットになっていたりと、それなりに人気があるのに、第3番はというと、どうも影が薄く、全7曲(クレルヴォ交響曲は一応別枠としておきます)の中でも、人気の度合いはたぶん下の方でしょう。
 しかし、わたしは思うのです。実はこの交響曲第3番は、最もシベリウスの初心者が馴染みやすい曲なのではないかと。
 たまたまわたしの感性に合っただけかもしれませんが、初めて聴いた時、冒頭を聴いた瞬間から「ああ、いかにもシベリウスの世界だな」と感じました。低音から始まる細かい動きの上に、管楽器のハーモニーが重なり、それがだんだん上へと広がっていく様子は、曇った日の一面の雪景色が、だんだん雲が晴れ、日差しが差し込んで明るくなってゆく光景を見ているようで、冷涼な空気と明るさがまさにシベリウスの音楽に聞こえました。
 さらに、清々しい雰囲気でシベリウスらしさを感じさせておいて、一方、メロディーは明快で、展開もあまり入り組んでいないため、音楽を追いかけやすく、あまりシベリウスを聞いたことが無い人でもすぐに馴染めるのではないかと思います。
 まあ、この辺りの明快さが、おそらくいわゆる玄人筋には今一つ受けが悪い理由なのでしょう。その後に作曲された交響曲第4番が、人気の度合いとすればたぶん第3番とそれほど変わらないのでしょうが、音楽的にははるかに完成度が高いと批評家からも高い評価を受けているのとは対照的です。
 ただ、第4番は、少なくともわたしにとってはあまり馴染みやすい曲ではありませんでした。あまりにも難解すぎて、最初はどう聴いてよいかわらず呆然としてしまったぐらいです。最近になって、あともう少しで好きになれそうなところまで近づいてはいるものの、まだちょっと時間が必要なようです。
 これだけハードルの高かった第4番と比べると、第3番の聴きやすさは異常なほどでした。もし他の交響曲を聴いてシベリウスはどうも面白くないと思う人がいたら、ぜひこの第3番を一度聴いてみて欲しいと思います。
 さて、演奏の方ですが、今回取り上げている、ベルグルンドがヘルシンキ・フィルを指揮した演奏は、ベルグルンド2回目の全集の中の一つで、以前から定評のあるものです。
 わたしは他の指揮者の演奏をそれほど聴いたことがあるわけではありませんが、他のザンデルリングやロジェストヴェンスキーといった辺りと比べて感じたのは、良い意味での薄さです。
 まず響きの薄さです。
 特に中音域の薄さで、高音と低音はそれほど薄さを感じなかったのに、中音は妙に細く、極端に言えばアルファベットの「I」の字のようになっています。
 しかし、この薄さが響きに透明感を与えているのです。他の演奏が、厚みがあるために迫力があると同時にどうしても熱気を帯びてしまうのに対して、ベルグルンドの演奏は、その薄さ故に風通しが良く、これが冷涼とした空気を生み出しています。
 さらに表情の薄さです。
 これは、比べる相手がザンデルリングとロジェストヴェンスキーだからというもあるのでしょうが、他の演奏が、起伏を大きくつけ、色彩も鮮やかに、メロディーも思いっきり歌いこんでいるのに対して、ベルグルンドはかなり控えめです。その結果、他の演奏は表情が豊かなところが良くも悪くも人間的なものを感じさせるのに、ベルグルンドの演奏に人間は見当たりません。見渡す限り、どこまでも自然が広がっていて、静かで清らかなのです。
 指揮者の個性よりもシベリウスの音楽を前面に出した演奏で、心行くまでシベリウスの音楽を堪能できました。なるほど、こういうところが定評のある所以かと納得しました。(2010/5/1)


サイトのTopへ戻る