J.S.バッハ クリスマス・オラトリオ

指揮クルト・トーマス
出演ソプラノ:アグネス・ギーベル
アルト :マルガ・ヘーフゲン
テノール:ヨゼフ・トラクセル
バス  :ディートリッヒ・フィッシャー=ディスカウ
演奏ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
聖トーマス教会合唱団
録音1958年12月5〜12日
発売EMI
CD番号CMS 7 69805 2


このCDを聴いた感想です。


 完全に「聖」ではないけれども、「俗」でもない。地上にいて天の「聖」を目指しているところとでも言いましょうか、敬虔深いけれども身近な人間っぽさをも併せ持った演奏です。
 大編成の演奏ですから、古楽器などの小編成による演奏のような研ぎ澄まされた厳しさは無く、良くも悪くも多少なりともゆったりとした余裕があります。その一方で、いわゆる古い時代の大指揮者たちのように、分厚い響きで暑苦しいまでの迫力で圧倒してくることもありません。様式を壊さないように節度を保ち、響きも風通しの良い薄さです。
 鋭さにしろ迫力にしろ圧倒されることは無く、それぞれの演奏の中間に位置して、その点では身近で親しみやすさを最も感じます。天ではなく地にある演奏です。
 その一方で、メロディーやダイナミクスなどをことさら強調したり濃い表情を付けたりといった演出をすることなく、自然に歌わせることで、音楽をより聖に近づけています。
 ただ、ステレオ初期の頃の録音で、左右の分離が激しく響きが一体に聞こえないこともあって、全合奏で演奏するような、各部の最初の曲や終曲などの大きい曲は、ちょっと中途半端な印象を受けます。こういう曲は、もっと迫力で押すかあるいは逆に澄み切った響きで演奏して欲しいと感じました。
 良かったのは、中編成以下のアリアや合唱中心のコラールです。
 合唱だけであれば、響きも澄んだ上に迫力もあります。ただきれいに揃っているだけでなく、歌に意志が感じられるのです。
 歌と楽器のソロが一つずつ+伴奏のような小編成のアリアは、録音による影響が少なく、歌に込められた感情が豊かに伝わってきます。一音一音を大切にしてじっくりと歌っているのがよくわかります。声や楽器の音色も鮮明ですし、大きな編成ではないため響きが不自然に左右に広がったりせず、音の像が一点にちゃんと焦点が合った自然な姿で聞こえます。
 さきほど、大編成の曲は今一つという印象を受けたと書きましたが、一曲だけ例外があります。
 第2部の最初の曲「Sinfonia」、この曲だけは録音の悪さを忘れてしまうほど聞き入ってしまいました。
 わざわざ説明するまでもないかもしれませんが、この曲は、全曲の中で唯一声が入らないオーケストラだけの曲で、ゆったりと穏やかに進んでいきます。
 とても静かです。人っ子一人いない草原の夜から次第に明るくなって朝が来て昼になり、しだいに暗くなって夕方になり夜になるという、一日の移り変わりをじっと見ているかのような気持ちになります。過去から変わらず、そしてこれから未来もずっと同じ繰返しが続いていくという、いわば「永遠性」を表しているかのように感じます。
 そう感じたのは、一つにはまずテンポがかなりゆっくりであること。さらにダイナミクスがピアノからフォルテへと変わっても表情の変化はごくわずかに抑えられているためだと思います。
 さらにオーボエなど第1奏者と第2奏者とでオクターブぐらい上下が離れていながらほとんど同じ動きをする楽器は、下の声部のバランスがわりと強めで、音に立体感があります。これが、音楽全体にも深みと落ち着きを与えているのです。
 この曲聴いていると、怒りや不安といった不安定な感情が治まり、とても心安らいだ気分になります。
 ドラマチックだったり先鋭ではありませんが、安らぎや祈りが流れ出る演奏というあたり、トーマスが聖トーマス教会のカントルなど教会に関わりが深かった指揮者というのが深く納得できました。(2006/11/11)


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