J.S.バッハ マタイ受難曲

指揮クルト・マズア
出演エヴァンゲリスト、テノール:ペーター・シュライアー
イエス:アンドレアス・シュミット
ソプラノ:エディット・ヴィーンズ
アルト:キャロライン・ワトキンソン
バス、ユダ、ペテロ、ピラト、祭司長:アラステアー・マイルズ
女中その一:スザンヌ・フリューハーバー
女中その二、ピラトの妻:クリスティーネ・ハースト
祭司その一:ドミニク・インフェレラ
祭司その二:アンドリュー・アダムス
証人その一:アミー・ブローシャス
証人その二:ジョナサン・ボイド
演奏ニューヨーク・フィルハーモニック
ウェストミンスター交響合唱団
アメリカン少年合唱団
プリンストン・トリニティ合唱団
録音1993年2月18〜20日
販売ニューヨーク・フィルハーモニック協会
CD番号NYP 0103


このCDを聴いた感想です。


 かなりドラマチックなマタイ受難曲です。

 この演奏には、現代の古楽器の演奏で聴く事ができるような、敏捷性の高さやスッキリとした響きはありませんし、リヒターの旧盤のような求道的な厳しさも感じられません。
 しかし、このマタイ受難曲をあえて宗教性を無視して一つの物語として見たならば、これほど聴き手をワクワクドキドキさせて引きずり込む演奏もなかなか無いのではないかと思います。
 その特徴を最も顕著に表しているのがエヴァンゲリストのシュライアーの歌唱です。
 シュライアーといえば、リヒターの新盤でもエヴァンゲリストを務めていますし、自分でもマタイを指揮するぐらいですから、もうマタイに関しては第一人者と呼んでも良いくらいでしょう。
 そのシュライアーが、まるでリミッターを外したかのように、表現力の粋を尽くして歌い上げているのです。
 その歌い方は、テンポが内容と表現に合わせて自由自在に速くなったり遅くなったりするだけでなく、喜怒哀楽を強く出しているため、感情がストレートに感じられ、他の演奏のエヴァンゲリストによく見られるような、伝記者として一歩引いて客観性を保っているような冷たさがありません(ただ、だからといって客観性を保った演奏が悪いというわけではありません)
 そのため、聴いていると、まるで自分も現場で立ち会っているような生々しい臨場感が感じられます。
 シュライアー以外のソリストや合唱は、さすがにシュライアーほどの表現の幅はありませんが、それでもピアノとフォルテのダイナミクスの差を大胆に取り、場面場面での人物の感情を強く伝えています。
 例えば『十字架に架けろ!』という合唱なんかは、まるで自分も群集の一人となって、叫んでいるような気がしますし、コラールなんかでは、逆に「ああっ、なんという事が起こってしまったんだ!」と現代人の一人として痛恨の念が一瞬起こってくるほどです。
 オーケストラの方も、もちろん同じ傾向で、ドラマチックに表現しています。
 メンゲルベルクの演奏でも有名な、ソロヴァイオリンを伴った『憐れみたまえ、わが神』のアリアは、ポルタメントこそ無いものの、非常に人間的な、弱き者の悲しみを感じさせるという点では、メンゲルベルクに近い雰囲気があり、しかもライブということもあって、いまにも啜り泣きが聞こえてきそうに思えます。
 また、通奏低音については、曲によってオルガンとチェンバロを使い分けているのですが、なかなか曲の雰囲気に合わせた選択がなされています。

 全体としては、表現を重視している事もあり、さらに編成も大きいため、力強く迫力を感じさせ、さらになかなか重厚でもあります。
 ただ、その反面、小回りが利かなくなり、音のキレは今一つといったところです。
 また、響きの面でも、濁りが出てしまっているため、際立って澄んでいるとは言えず、まあ、並の綺麗さといった所でしょう。もちろんそれでも十分なんですが。
 こういった辺り、この演奏は、どちらかいうと、一昔や二昔も前の、19世紀生まれの指揮者達の演奏に近いかもしれません。

 この演奏は1993年の録音ですが、ライブということもあってか、録音はどうも今一つです。
 合唱が若干引っ込み気味ですし、外で雨でも降ってるかのようなパラパラという雑音が結構頻繁に聞こえます。
 といってもデジタルですし、鑑賞に支障があるようなレベルではありません。

 最後に一点注意して頂きたい点があります。
 実は、このCDはBOXセットの中の一枚で現在(2002年11月)のところバラ売りはしていないため、もしこの演奏を聴きたい場合は、BOXセットで買わなければなりません。
 で、このBOXセットなのですが、クルト・マズアのニューヨーク・フィルでのライブ集みたいなもので、ニューヨーク・フィルハーモニック協会が出している自主製作盤なので扱っている店がかなり限られています。
 しかも、次が一番重要な点なのですが、値段が目玉が飛び出るほど高いのです。
 たしかに10枚組と枚数は入っていますが、約30,000円という値段を知った時には、思わず眩暈がしましたよ(笑)
 結局、清水の舞台から飛び降りる気持ちで買いましたが、正直、この曲のためだけに出すのはどうかと思います(汗)(2002/11/29)


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