J.S.バッハ ヨハネ受難曲

指揮トン・コープマン
出演エヴァンゲリスト:ガイ・ド・メイ(Guy de Mey)
イエス:ペーター・コーイ(Peter Kooy)
女中、ソプラノ:バルバラ・シュリック(Barbara Schlick)
アルト:カイ・ヴェッセル(Kai Wessel)
ペテロ、ピラト、バス:クラウス・メルテンス(Klaus Mertens)
下僕、テナー:ゲルド・テュルク(Gerd Türk)
演奏アムステルダム・バロック管弦楽団
オランダ・バッハ教会合唱団
録音1993年3月
発売Erato
CD番号4509-94675-2


このCDを聴いた感想です。


 演奏家の息遣いまで感じられそうなぐらい、すぐ近くで演奏しているかのようです。
 まさに小編成の特長を活かしています。
 特に、語りに近い叙唱(レチタティーヴォ)では、表情豊かで抑揚も大きくつけて歌っているのですが、その変化のしかたが細かくかつ急激なところがポイントです。
 これにより、大編成の演奏によく見られるような、まるで舞台上から不特定多数に向けて呼びかけているような、身振りの大きな大げさな雰囲気が無く、逆に語り手が目の前にいて、自分一人のためだけに、聴いている自分の反応を見ながら語りかけてくれているような気になってきます。
 目の前にいるのですから、無理に大きく声を張り上げなくてもささやくようなしゃべり方でも十分聞こえますし、遠くで見ている人に分からせるためにはゆっくりと大げさにやる必要がありますが、そんな必要は無く、ほんのちょっとした動きでもニュアンスは伝わりますし、急激に変化させても、聴いている方は空気が読めるので、動きに十分についていくことが出来ます。
 さらに、叙唱以外でも、フォルテになっても濁らない透明な風通しの良いサウンドは、大編成ではなかなか得ることできない、小編成ならではの魅力です。
 その一方で、小編成である以上避けられないのが重量感の乏しさです。
 これは、透明感や風通しの良さといった軽さと表裏一体のものですから、あながち弱点とは言い切れないのですが、重さに欠ける分、強く感情に訴えかけるようなパワーはあまり感じられません。
 ただし、だからといって小さくまとまってしまって迫力が無いわけではありません。
 中盤以降の民衆が叫ぶ合唱の場面などでは、速いスピードで次々と畳み掛けるように演奏することで、まるで、鎧に身を固めてスピードは遅くてもその重量感で威圧する重騎兵の代わりに、軽装備でもスピードで圧倒する軽騎兵のように、重さは無くても、スピードと勢いで迫力を生み出しています。

 ところで、この演奏で一つ面白いと思ったのがコラールの歌わせ方です。
 メロディーを妙に細かく区切って演奏しています。
 他のアリアやコーラル以外の合唱では、何小節かにまたがるメロディーが出てきても、それは一つのメロディーとして大きく歌われているのですが、コラールは短いフレーズでさえ一つのメロディーとして扱っていません。
 ほとんど、一つか二つの音ごとに区切って演奏しているように聞こえます。
 これは、文章でいったら一文字ごとに読点を入れているようなもので、メロディーとして聴くと流れが非常悪く、聴く人によってはこういう演奏の仕方を嫌がられる方もいらっしゃるのではないかと思います。
 しかし、わたしが考えるに、コープマンはこのコラールをメロディーとしてではなく、和音の積み重ねと捉えているのではないでしょうか。
 一つ一つの和音は綺麗に響いていますし、それが次々と移り変わっていく、という風に聴くと、一音ごとに区切られていても変ではありませんし、むしろメロディーの流れがあまり強すぎない方がそれぞれの和音の扱いが平等に近くなり、響きの移り変わりに耳を傾けやすくなります。
 もっとも、これはわたしが勝手に推察しているだけで、本当にコープマンがそういう意図で演奏しているかどうかは非常に怪しいものです(笑)(2004/3/6)


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