J.S.バッハ イタリア協奏曲

演奏ピアノ:グレン・グールド
録音1959年6月22〜26日
カップリングJ.S.バッハ パルティータ第1番 他
「GLENN GOULD BACH PIANO WORKS」の一部
発売SONY BMG
CD番号88697 00814 2


このCDを聴いた感想です。


 グールドは、この曲を2回録音しており、今回取り上げるのは1回目にあたる1959年の録音です。同じように2回録音しているゴールドベルク変奏曲の1回目の録音は1955年だったためモノラルでしたが、イタリア協奏曲は1回目の録音からすでにステレオで録音されています。
 後の1981年の新録音とこの1958年の旧録音を較べると、もっとも大きな違いはテンポです。
 第1楽章は5秒の差ですからそれほどでもありませんが、第2・3楽章は旧録音の方が一段階速いテンポが取られています。それは演奏時間の差にも表れていて、第2楽章では、新録音の7分57秒に対して旧録音は5分56秒、第3楽章では、新録音の3分38秒に対して旧録音は3分2秒であり、聴いていても違いがはっきりとわかります。
 第2・3楽章の演奏時間は、グールドの新旧録音の比較でもたしかに差がありますが、実はもっと差に驚かされるのは他の演奏者の録音と較べた時です。
 わたしもイタリア協奏曲のCDはそれほど持っているわけでは無く、他に6〜7種類持っているだけですが、そちらの演奏では、第2楽章では、ほとんどが4分から4分30秒の間です。わずかにシュナーベルのピアノによる演奏が5分30秒ほどで、これが例外的に長いのですから、旧録音ですらそれより30秒近くも長いグールドがいかに遅いテンポかお分かり頂けると思います。ましてや新録音の8分近いというのはほとんど倒れそうなぐらいの遅さです。
 一方、第3楽章は、他の演奏では第2楽章と時間はほとんど変わらず4分から4分30秒ぐらいにおさまっています。こちらもシュナーベルだけは3分30秒ぐらいと例外的に速く、グールドの旧録音はそれよりさらに30秒近くも短い3分強ですから、こちらも疾風のような速さです。
 ただ、この比較には一つ大きな問題があります。グールドとそれにわりと近いタイプのシュナーベルが両者ともピアノで演奏しているのに対して、他の6種類の演奏は全てチェンバロによるものです。もしかしたらチェンバロが概して遅めで、ピアノではグールド、シュナーベルぐらいが平均なのかもしれません。なにぶんピアノによる演奏は他に持っておらず、較べられなかったため統計としてはかなり問題があるでしょう。もしピアノによる演奏を加えても、シュナーベルとグールドによる演奏が特別に速かった場合、グールドはシュナーベルに私淑していたため、グールドはシュナーベルのテンポに影響を受けて、それをさらに極端にしたのかとも思いますが。
 まあ推測はそれぐらいにしておきましょう。さて、曲を聴いている時に、強く印象付けられるのは、第2楽章の遅さより第3楽章の速さです。
 ただでさえテンポが速いところに一つ一つの音をかなりスタッカート気味に短く切っているため、異常なほど歯切れの良い音楽になっています。音が短いため細かい動きもクリアで、それが速いテンポでくるくると動く様子は、まるで大量の真珠を机の上に撒いたようで、粒が揃って整った美しさとそれが一斉に広がっていく華麗さを共に備えています。
 これが新録音だと多少テンポが遅くなっているのに加えて、音に余韻が加わり、ロマンチックではあるのですが、大きく広がる華やかさはだいぶ失われています。
 一方、第2楽章は、たしかにテンポが遅いはずですが、聴いているとそれほど遅くは感じません。
 新録音が極端に遅いため、それと較べるとはるかに速く聞こえるというのはあります。しかし、それ以上に弾き方による要素が大きいのです。
 ここでも第3楽章と同様にスタッカート気味に短く切っているため、遅いテンポのわりにキレがありテンポ以上にスピード感を感じます。
 面白いのは、メロディーと伴奏で弾き方を変えている点です。
 メロディーは音を短く切りつつも余韻を残して歌わせているのに対して、伴奏は音をそれほど短く切らず逆に余韻はほとんど残しません。まるで、メロディーはホールで演奏しているのに伴奏は無響室で演奏しているみたいです。音が聞こえるのは鍵盤を押している時だけで、鍵盤から指を離すと同時に音もスパッと切って、メロディーとははっきりと扱いに差をつけています。余韻が残るメロディーが多少ロマンチックな方向に傾くところを、この伴奏がきっちりとした音楽にグッと引き戻しています。フォルムがしっかりと固まっているため、遅いテンポでも後ろに引っ張られずあまり遅い印象を受けないのです。
 新録音では、伴奏にも多少余韻が残っていて、そのためによりロマンティックな傾向が強く表れています。それはそれで魅力的ではありますが、個人的にはキレがあるこの旧録音の方が好みです。(2008/8/9)


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