J.S.バッハ カンタータ第61番「いざ来ませ、異邦人の救い主」BWV61

指揮カール・リヒター
出演ソプラノ:エディット・マティス
テノール:ペーター・シュライアー
バス  :ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ
演奏ミュンヘン・バッハ管弦楽団
ミュンヘン・バッハ合唱団
録音1966〜78年
カップリングバッハ カンタータ「キリストは死の縄目につながれたり」他
カンタータ集の一部
発売ポリドール(ARVHIV)
CD番号POCA-2200/2


このCDを聴いた感想です。


 この演奏は、なんといっても第5曲のアリア「戸を開け、わが心よ、くまなく」につきます。
 ソプラノのアリアなのですが、その歌が非常に心に染み入るのです。
 ゆったりとした曲調で、心にどんな心配事があっても気持ちが軽くなり、気分を穏やかにしてくれます。争いごとなど何一つ無い、平安に満たされた夢の世界を体験しているような気分になってきます。
 しかもその歌い方は、穏やかであっても、起伏の乏しい淡々としたものではありません。むしろ感情を出してけっこう強く歌い込んでいます。しかし、声の質が上品でしっかりしていて、さらに必要以上に力が入り過ぎていないため、歌に濁りが無く、優しく穏やかな雰囲気に包まれているのです。
 わたしは、声楽が含まれた曲であっても、大抵の場合、声よりもオーケストラの方ばかりに耳が向かいがちなのですが、この曲だけは、珍しく歌っているのが誰なのかが非常に気になり、即座に歌手をチェックしました。
 その結果、エディット・マティスという歌手を知ったのです。
 それまで、エディット・マティスについては、リヒターの演奏で後年よく参加していたという程度の知識で、それこそ名前を聞いた事があるレベルに過ぎませんでした。なにしろわたしが持っているリヒターの演奏はほとんどが1950年代から1960年代前半ぐらいで、まだマティスはいなかったのです。
 この演奏で、マティスを初めて聴いて、なるほどこれならリヒターに重用されても全く不思議ではないと納得しました。それほど強く印象付けられたのです。
 さらに、歌だけでなく、伴奏も穏やかな雰囲気作りに大いに貢献しています。
 伴奏といっても、ほぼ通奏低音にパイプオルガンの和音がつくぐらいですが、パイプオルガンの音色がまたよく似合っているのです。
 倍音の少ない素朴な音色で、透明感があります。これがいくぶん控えめに演奏されることで、歌に後光をついたようになり、天国的な雰囲気をさらに高めています。
 このように第5曲の印象が最も強かったのですが、他の曲も、決してかすんではいません。
 他の曲では、もう一つのアリアでこちらはテノールが歌う第3曲の「来ませ、イエスよ、来ませ、汝の教会に」も、「主よ、人の望よ喜びよ」に似た、3連符が延々と流れる音楽ながら、急にフォルテからピアノに変化したり、意外と暗めだったりと面白いものでした。
 しかし、印象という点では、このアリアよりも、このアリアと第5曲のマティスのアリアに挟まれた第4曲のバスのレチタティーヴォ「見よ、われ戸の外に立ちて叩く」の方が、強く残っています。
 まさに戸を叩くかのような弦楽器のピチカートが、ゆっくりしたテンポの中で規則正しく刻まれるという、動きは少ないものの緊張感のある曲です。
 前の第3曲が常に流れがある曲で、第5曲は第5曲で、遅いテンポながら穏やかな曲調ですから、上手く対比になっています。レチタティーヴォですから1分強程度の短い曲ですが、短い割には印象に残りました。
 他の3曲についても、典型的なレチタティーヴォである第2曲を除けば、それぞれ聴き所のある曲です。
 第1曲、第6曲はともに、合唱がメインの曲で、その華やかさは他の楽章には無いものです。
 じっくりと時間をかけて長く演奏される第1曲は重厚感があります。逆に第6曲は、それまでの穏やかなアリアから一転して華やかに始まり、一気に駆け抜けて、1分もかからず終わります。
 そのスピード感と潔さはこれはこれでなかなかインパクトがありました。
 第4曲以外は、それほど歌詞を考えて聴いたわけではありませんが、それでも十分に楽しめました。面白い曲です。(2008/2/9)


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