J.S.バッハ 2台のヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調

指揮ウィレム・メンゲルベルク
独奏Vn:ルイス・ツィンマーマン
Vn:フェルディナンド・ヘルマン
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1935年6月24日
発売及び
CD番号
HISTORY(205254-303)
Pearl(GEMM CD 9154)
Refrain(PMCD-2)


このCDを聴いた感想です。


 この演奏で印象に残ったのは、なんといってもソロにつきます。
 これほど力を込めて歌いまくるバッハというものなかなか珍しいのではないでしょうか。
 第1楽章で初めてソロが登場した瞬間から、アクセントは必要以上に重く強調され、メロディーは濃いメイク並みの豊か過ぎる表情で歌われていますし、テンポも節回しにあわせてかなり伸び縮みしています。
 ゆったりとした第2楽章では、ビブラートをたっぷりとかけ、ここぞというポイントではポルタメントまで駆使して、とてもバッハとは思えないくらい情感を込めてメロディーを思う存分歌いきっています。
 あまりにも歌わせ方がロマンティックであるため、なんだかだんだん、作曲者はバッハではなくて本当はチャイコフスキーか誰かじゃないかとか思いたくなってくるほどです。
 曲名が「2台のヴァイオリンの〜」というくらいですから、当然ソリストは二人いるのですが、二人とも同じような傾向でソロを弾いている(幾分1stの方がより強いのですが)事から考えると、もしかしたらメンゲルベルクの指示による歌わせ方なのもしれません。
 そのメンゲルベルクによる伴奏の方は、ロマンティシズム全開のソリストに較べると、かなり手堅くまとめています。
 メンゲルベルクのバッハというと、有名な「マタイ受難曲」の演奏に代表されるような、現代の演奏からはおよそかけ離れた伸び縮みが激しくドラマチックというイメージがどうしても思い浮かぶのですが、この曲では、物語性がない曲ということもあって、「マタイ受難曲」のような激しい動きはありません。
 テンポもほとんど揺らさず……いや、楽章の最後で大きく落とすだけで、残りの大部分は、インテンポと言って良いぐらい一定のテンポを保っています。
 ただ、いくらテンポをキープして手堅くまとめているとはいえ、そこはメンゲルベルク。単なる大人しい伴奏ではありません。
 おそらく編成が大きいせいもあるのでしょうが、とにかく重厚です。
 一定のテンポを保っているためスピード感があり、鈍重ではないのですが、やたらと迫力があります。
 さらにメロディーを演奏する時には、まさかロマンティックなソロに対抗しているわけではないでしょうが、こちらはベートーヴェンでも演奏しているかのように、勢いよく前に突進していきます。
 ソロのチャイコフスキーと伴奏のベートーヴェンとが合体している時点で、すでにこの演奏をバッハと呼んでいいものかはかなり疑問……少なくとも人には薦められません(笑)
 ただ、個人的には、こういうバッハも結構楽しんで聴いていたりします。

 ところで、この演奏は1935年の録音なのですが、この時期の録音は、ちょっと貴重です。
 録音年順リストを御覧になった方は気付かれたと思いますが、この時期は、大恐慌のさなかで、ちょうどコロンビアへの録音とテレフンケンへの録音の狭間にあたり、スタジオ録音は、この録音も含めてDeccaに遺したものが若干あるだけで、ライブ録音もそれほど遺されていません。
 たしかにメンゲルベルクは長い録音キャリアの割には、初期と最晩期でも解釈にそれほど違いはない指揮者ではありますが、それでもコロンビアとの録音とテレフンケンとの録音にはたしかに違いがあり、この録音はその間の変化の過程を知る事ができる数少ない録音というわけです。(2003/10/18)


サイトのTopへ戻る