J.シュトラウスII 喜歌劇「こうもり」序曲

指揮クレメンス・クラウス
演奏ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音1929年7月2日
カップリングJ.シュトラウスII 喜歌劇「ジプシー男爵」序曲 他
「Wiener Philharmoniker 150 vol.5」の一部
発売EMI
CD番号CDH 7 64299 2


このCDを聴いた感想です。


 新年(2004年)最初の更新ということで、せっかくですからヨハン・シュトラウスを取り上げてみましょう。
 指揮者は現在も続くニューイヤーコンサートの創始者クレメンス・クラウス、オーケストラも当然本場中の本場ウィーン・フィルの演奏ですが、聴いてまず最初に気がついたのは、
「現代のオーケストラに比べるとアンサンブルの正確さはさすがに劣るなぁ」という点です。
 もちろん、そうはいっても一流オーケストラですし、やる気の無い時のフランスのオーケストラじゃないんですから(本気のときはちゃんと素晴らしい演奏をしますよ。念のため)、聴くに耐えないなんてことは無く、鑑賞にはほとんど問題ないレベルなのですが、ここぞというポイントや細かい音符ではどうしても濁って聞こえます。機能性が追及された現代では、どんなに細かい音符でも完璧に演奏できるオーケストラも決して少なくないことを考えれば、やはり揃っていないといえるでしょう。
 しかし、この演奏はそんなところに注目して聴く演奏ではありません。
 やはり、当時のウィーンやワルツの雰囲気を感じる方が重要でしょう。
 演奏の正確さは、メンゲルベルクやトスカニーニといった辺りに任せておけば良いんです(笑)
 雰囲気の方は、これはもう思う存分味わえます。
 音が低い音から高い音もしくは高い音から低い音に跳躍する部分では、ポルタメントがキュインとかかり、甘く優雅な雰囲気を醸し出しています。
 しかもこのポルタメントは、メンゲルベルクのように強くかけるのではなく、軽くさりげなく、それでいてハッキリと存在がアピールされているという絶妙なかかり具合で、まるで、一見ごく普通の紳士のように見えて、実は生地が最高級だったり、よく見るとカフスは石だったりといった、さりげないお洒落のようで、スマートというか都会的というか、趣味の良さが感じられます。
 ワルツの方は、わたしにとって意外な発見がありました。
 わたしは今まで、ウィンナ・ワルツは、3拍子の中で、2拍目がちょっと早めで3拍目は逆にちょっと遅れて入ってくるというのは知っていたのですが、1拍目と2拍目の関係については、1拍目は頭になるので重く、2拍目はテンポよりちょっと早めに入ってくるので、その分、軽く抜くのかと思っていました。つまり「タタンッッタ」と思っていたわけです。(最初の「ダ」と「タ」が両方とも8分音符、「タンッッ」が4分音符、最後の「タ」がちょっと遅れて入ってきた3拍目の4分音符、太字がアクセントだと考えてください。ちなみに楽譜上は全ての音にアクセントの印が書かれています)
 ところが、クラウスの演奏を聴いてみると、実は違うことがわかりました。
 2拍目が早く3拍目がちょっと遅く出るのは予想通りなのですが、重く演奏するのは1拍目だけではなく、2拍目も同じぐらい重く、「ダダダンッッタ」という感じなのです。
 聴いた印象としては、軽やかではなく、ずいぶん重く、かなりメリハリのついた力強さがあるように思われました。
 もっとも、この曲のワルツのリズムが他の一般的なワルツの伴奏のリズムとちょっと異なっているので、よけい目立って聞こえるのかもしれません。しかし、後年はともかく同時代のクラウスの他の録音を聴く限りは、割と近い傾向があるように聞こえました。
 テンポについては、速いテンポの部分は、若干伸び縮みがあるにせよ、ほぼ一定のテンポを保っているのに対して、中ほどのオーボエのソロが出てくる辺りの遅いテンポの部分では、かなりテンポを自由に揺らしています。
 そもそもベースとなるテンポ自体かなり遅めなのですが、その中でも、ソロのフレーズの終わりでは止まりそうになるぐらいテンポを落としたりと、ほとんどアドリブのような扱いをしています。
 全体としてはモダンなのに、ここぞというポイントでは思いっきりロマンティックに演奏する辺り、その対比がなかなか魅力的です。

 ちなみに、クラウスは、この曲の録音を1929年の当録音以外に、約20年後の1950年に同じウィーン・フィルと「こうもり」全曲を録音していて、当然序曲もその中に含まれています。
 聞き比べた印象としては、後年の方がテンポの揺れの幅が大きく、ウィーン訛りをより強く出しているのに対して、この古い方の録音は、もっとスマートで洗練されています。
 どちらもそれぞれ良さがあるのですが、当録音は20年昔という点がやはりネックで、どうしても録音状態では明らかに差がついています。現代の20年ならともかく、当時の20年は無視できない違いです。(2004/1/10)