J.シュトラウスII ワルツ「美しく青きドナウ」

指揮エーリッヒ・クライバー
演奏ベルリン国立歌劇場管弦楽団
録音1923年
カップリング加速度円舞曲 他
「ERICH KLEIBER dirigiert Walzer und Ouvertueren」の一部
発売archiphon
CD番号ARC-102


このCDを聴いた感想です。


 まるで蜂蜜のように甘くねっとりとした演奏です。
 テンポはよく粘り、激しく伸び縮みします。なによりメロディーの歌わせ方が、とろけるように甘いのです。ポルタメントまで駆使して、音を滑らかにつなげて柔らかく歌わせています。
 特に第2ワルツの後半で、調がニ長調から変ロ長調に転調して、ヴァイオリンが高い音で音を長く伸ばし、そこからなだらかなメロディーに入っていく部分は、甘さが頂点を極めています。
 出だしは単に音を長く伸ばしているだけなのに、入り方が絹のように柔らかく、そこから次の音に向かってだんだんクレッシェンドして行きながら、さらに思いっきりビブラートをかけて行きます。それが最高潮に達したところで、流れるように音が動きメロディーに入って行くという、聴いていて思わずため息が漏れそうになるくらいトロッと甘い音楽です。
 さらに、テンポの伸び縮みが加わり、ネットリ感を倍増させています。
 メロディーの入る前で大きくテンポを落として期待感をあおったり、メロディーに入ってからは急激に加速させてスピード感を出したりと、スタイルとしては、ウィーンのオーケストラによるクラウスやボスコフスキーなどの他の演奏と方向性はほぼ同じです。ただ、この演奏では変化をかなり極端にしています。遅い部分は本当に止まりそうなぐらいですし、速い部分は突進するぐらいの勢いで、メリハリがあるため、古い録音とは思えないぐらい表情豊かに聞こえます。
 今、古い録音と書きましたが、残念ながら録音状態は劣悪です。
 録音年が1923年ですから、当然機械録音でしょうし、実際、高弦のメロディーはよく聞こえるものの、あとは管楽器がまあまあ聞き取れるぐらいで、中低弦はもうかすかに聞こえる程度です。さらに序奏の一部ではフォルテになった部分で音割れまでしていて、かなり厳しい状態です。まあ、機械録音にしてはまだマシな方だとは思いますが、そもそも機械録音である時点で、観賞用としてはほぼアウトでしょう。
 さすがにクライバー本人かレコード会社が不満だったようで、10年も経たない1931年に、クライバーは今度はベルリン・フィルと再録音しています。
 再録音は、電気録音ということもあって、録音状態としては比べ物にならないほど向上しています。とりあえずハーモニーをちゃんと聞き取れるという時点で、再録音の圧勝です。もちろんあくまでも1923年の録音と較べてであって、1931年の再録音も現代からすると鑑賞するにはだいぶ覚悟がいる代物ですが。
 テンポの取り方や歌わせ方などの基本的なスタイルは新旧録音とも同じ方向性ではあり、録音状態だけ見ると1931年に分があるように思えますが、新録音の方は多少すっきりしてしまい、より極端に豪快にやっているのは旧録音の方なのです。
 そのため、録音は劣悪なのに、なぜか甘さはむしろ旧録音の方が強く表れています。いくら録音が悪くても、この甘い感触を楽しめるのは旧録音です。
 ところで、戦前の名盤紹介本として名高い、あらえびす著の「名曲決定盤」のクライバーの項目の冒頭に「美しく青きドナウ」のエピソードが登場します。
「ドイツのフォックスにクライバーが『ブルー・ダニューブ・ワルツ』を二枚四面にのんびりと吹き込んだことがあり」というもので、ここに出てくる録音は旧録音の方です。このくだりは、「日本に来たのは三組だけで、一組を自分が買い、一組は近衛子が買い、残る一組は、さる高貴の方がお買い上げになった……」という、いわゆる「あらえびすの三枚目」の代表的なエピソードとしても有名ですね。
 文中に、二枚四面にのんびりと吹き込みと書いてありますが、たしかに演奏時間は12分近くかかっています。現代の録音でも10分かけていない演奏も多く、さらに、当時の録音は、少しでも短く収めるために、不自然なほどテンポを速くしたり、場合によってはカットまでしているぐらいですから、それだけたっぷりと時間をかけているのは、まさに「のんびり」という形容がピッタリ合っています。クライバー本人ですら、ベルリン・フィルとの再録音では、8分半に収めています。テンポは極端に違うわけではないので、おそらく繰り返しをするしないの違いでしょう。
 ちなみに、クライバーの項目の後半に、推薦盤の筆頭に「碧きドナウの流れ」という名前で挙げられていますが、これはベルリン・フィルとの新録音の方です。(2011/1/15)


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