J.P.スーザ 星条旗よ永遠なれ

指揮トマス・シッパーズ
演奏ニューヨーク・フィルハーモニック
録音1976年9月15日
カップリングメンデルスゾーン 真夏の夜の夢より結婚行進曲 他
「The Famous Marches in the World」の一部
発売YEDANG
CD番号YCC-0074


このCDを聴いた感想です。


 あらゆる点で変……というか謎が多い演奏です。
 そもそも、このCDに収録されている事自体が謎の一つです。
 たしかに、「The Famous Marches in the World(世界の有名行進曲集)」とタイトルが打たれているだけあって収録されている8曲は全て行進曲であり(メンデルスゾーンの結婚行進曲であるとかベルリオーズのラコッツィ行進曲であるとか。まあシチェドリンが入っていたりと「どこが有名なんだ!」とツッコミたくなるような曲もありましたが)、そこに「星条旗を永遠なれ」が入っていても、これは不思議でもなんでもありません。
 しかし、発売しているYEDANGというレーベル。CD店などでよく目にされている方ならすぐおわかりでしょうが、このレーベルは、スヴェトラーノフやロジェストヴェンスキーといった旧ソ連の演奏家の未発表ライブ(おそらくソヴィエト国内で行なわれた)をどこで発掘してきたのか続々とリリースしていることで有名なのです。実際、このCDに収録されている演奏も、「星条旗よ永遠なれ」以外のものは、スヴェトラーノフがソヴィエト国立響を指揮したものや、ロジェストヴェンスキーがソヴィエト国立文化省響やモスクワ放送響を指揮したもので、YEDANGレーベルでは定番の演奏家ばかりです。
 ところが、その中にポロッと一つだけシッパーズ指揮ニューヨーク・フィルなどという演奏が入っているので妙なのです。正直言って「なんでこんなところに?」と一瞬思ってしまうほどです。もしかしてモスクワ公演か何かなのでしょうか?
 さらに謎だったのが演奏時間です。
 楽譜に書いてある繰り返しを全部行なったとしても(そもそもほとんど演奏は全て繰り返しています)、通常は、まあ3分10秒から長くても3分40秒といったところでしょう。
 ところが、この演奏のCDに書いてある演奏時間は、なんと「7分13秒」。長いにしてもほどがあります。たとえ遅いテンポで有名だったチェリビダッケが演奏しても、とてもそんなにはかからないでしょうし、シッパーズがそこまで遅いテンポを取るというのもちょっと考えられません。後は楽譜の改変ぐらいですが、改変するにしてもこれではさすがに変えすぎです。結局、演奏を聴く前にわたしが予想したのは、単なる誤植ではないかと。実は、このCDはいい加減なところがあり、他に収録されている曲で、曲名の表記と実際の曲順が一部入れ替わっているもののあり(しかも演奏時間の表記だけは実際の収録順になっていた)、この演奏時間もそんなオチだろうと思っていました。
 ところが、聴いてみて驚きました。ちゃんと表記の演奏時間通りだったのです。
 といってもテンポが死ぬほど遅かったのでもなんでもなく、単に曲全体を二回繰り返していたというわけです。
 おそらく演奏会のアンコールか何かのライブ録音で、いきなり万雷の拍手から始まり、それが収まらぬうちに演奏が始まります。その演奏が終わった瞬間に熱狂的な拍手が起こり、それがまた続いているうちにもう一度繰り返されます。
 しかし、ここにも不思議な点があります。
 上記の文章では、演奏会のアンコールでこの曲が演奏され、さらに拍手が起こったので同じ曲をもう一度演奏した、というだけで、特に不審な点は無いと思われるでしょうが、実は、最初の演奏と二回目に繰り返された演奏とでは違いが多すぎるのです。
 有体に言えば、もしかしたら別のオーケストラではなかろうかと……
 まず、テンポからして大きく違いますが、これは急に解釈を変えたということで無理すれば納得できなくはありません。
 しかし、楽器の音量のバランスや音質まで変わっているのは、説明できません。いや、実は二種類のマイクを使っていて、しかも全然別のメーカー製だったとすれば、かなーり無理がありますが、なんとか納得できる範囲としましょう。
 そこまでしても、一回目の演奏では左から聞こえたスネアドラム(小太鼓)が二回目の演奏では右から聞こえてくるといった、楽器位置の違いはもうどうにも説明がつきません。
 こうなると、実は、演奏者が二人いて最初は左の奏者が、二回目は右の奏者といったように、ステージ上にオーケストラが二つあったぐらいしか思いつきません。たしかに過去にシンフォニー・オブ・ジ・エアが来日したときにそういうことをやった例があるらしいので可能性がないとはいいませんが、そうなるとそれは合同演奏会で、ニューヨーク・フィルだけではなくなってしまいます。
 もっと単純に考えて、一番ありそうなのが、全然別の演奏を二つ持ってきてつなぎ合わせた、というパターンなのですが、あながちそうとも思えません。
 一回目の演奏が終わった瞬間に拍手が起こり、その拍手が鳴り止まないうちに二回目が始まっています。つまり切れ目が無いのです。
 拍手の部分でつなぐのは、曲の途中でつなぐよりもさらに難しそうですし、唯一のチャンスは一回目の演奏が終わって拍手起こるまでの0.0000何秒かの一瞬ぐらいですが、ここも、よくよく聴き直してみると、最後の音の余韻が残っていて、やはりつなぐは無理のようです。
 結局、どうなっているのかさっぱりわかりませんでした。
 とことん不思議な演奏です。

 長々と謎の部分を書いてきましたが、演奏内容もそれに負けず劣らず強烈です。
 むしろ、演奏のインパクトが強すぎて、謎が山ほどあったことすら一瞬忘れてしまったほどです。
 特に一回目の方は猛烈な勢いで突き進んでいきます。
 たしかにテンポ自体も速いのですが、それ以上に爆発……というよりも暴発したような勢いに圧倒されました。
 アンコールだから後は倒れようとどうしようとしったこっちゃないとでも思ったのか、パワー全開にフォルティッシシシモぐらいで金管は吹きまくっていますし、弦楽器も弓の一本や二本叩き折るぐらいの勢いです。
 とりわけ凶悪なのがパーカッション(打楽器)で、それこそ親の敵とばかりに、これでもかこれでもかと狂ったように連打しています。しかもただでさえテンポが速いのに、そこをまた前へ前へと煽りまくるのです。
 行進曲のパーカッションですから、スネアドラムからバスドラム(大太鼓)、シンバルなど多くの楽器が登場しますが、その中で最も目立っていたのは、何を隠そうティンパニーです。
 一般的な管弦楽曲ならともかく行進曲でティンパニーが目立つということはあまり無いはずなのですが、録音の関係もあってか、他の全力で叩きまくるシンバルなどと同等か場合によってはそれ以上の存在感を誇っています。トリオの二回目でピッコロの目立つソロが登場しますが、その部分でもピッコロよりもティンパニーの方が主役に思えてきたぐらいですから。
 ちなみに、曲の冒頭では周りの弦や管を煽るだけ煽っていたパーカッションですが、トリオの三回目で全合奏になる部分では、なぜか急に遅くなり、むしろ前に行こうとする周りを後ろへ後ろへと引き戻しています。存在感だけは最初と変わらず大きいだけに、妙な逆転現象が起きてなかなか面白い形になっています。

 一方、二回目の演奏は、一回目の勢いが嘘のように落ち着いた演奏です。
 かなりテンポを遅くとり、一歩一歩踏みしめるように進んでいきます。
 そのため、力強さは一回目と較べても遜色なく、勢いの代わりに重さと厚い響きで圧倒しています。
 アタックも一発一発が重く、一回目の演奏がガンガン連打しているのに対して、二回目はドスンドスンと間隔を空けて重く響いてきます。
 パーカッションも、一回目ほど強烈ではなく(といっても、普通以上には十分目立っていますが)、こちらでの主役は金管楽器です。
 特にトリオの三回目の全合奏の部分は、主旋律のトランペット、対旋律のトロンボーンとも遅めのテンポをいいことにここぞとばかりに重く太い音でたっぷり吹きまくっていて、木管や弦など当然目ではなく目立つパーカッションすら完全に脇役に追いやってしまうほどの圧倒的な存在感を放っています。
 そういえば、この二回目の演奏の方には観客の手拍子が加わっています。
 一回目の勢いがある方に無くて、二回目の落ち着いた方にあるというのが、なかなか不思議なところです。
 もしかして、一回目は勢いに圧倒されて手拍子をするどころではなく、二回目は慣れてきて、しかもこれで終わってしまうと思ったから手拍子をしたということでしょうかね。(2005/7/16)


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