指揮 | 尾高忠明 |
演奏 | 東京フィルハーモニー交響楽団 |
録音 | 不明 |
カップリング | スメタナ 交響詩「モルダウ」 他 「NHK名曲アルバム3 特選名曲集 〜モルダウ〜」の一部 |
発売 | ユニバーサル ミュージック(NHK) |
CD番号 | POCC-4003 |
この曲は、「セレナード」というよりも「ハイケンスのセレナード」といった方が有名です。 有名な曲なのですが、割と最近までわたしは寡聞にして知りませんでした。 やっと何年か前に、あるアマチュアオーケストラの演奏会で初めて聴いたのですが、聴いた瞬間「おおっ!!」と目を見張りました。 といっても、この曲は、特に大きな盛り上がりがあるわけではありません。メロディーも意表をつくものではなく、「この音の次はいかにもこの音が来そうだな」と予想すると、本当に予想した通りに音が動いていきます。和音も特殊な和音を使っていたり、展開が変っているわけではなく、まるで教科書のようなオーソドックスな移り変わりをします。 ほとんど、芸術性が低くてありきたりな曲と言われても不思議ではないような曲です……が わたしの好みにはど真ん中の曲だったのです。 まるっきり陳腐のような、メロディー、和音、その全てがわたしにとっては逆に魅力的でした。 予想した通りに音が進んでいくというのは、逆にいうと、メロディーはこうあって欲しいといった願望が本当に具現化した姿とも言えます。 さらに、聴いていると、だんだんリラックスして来て、非常に穏やかで平和な気分になってきます。 ノスタルジーを呼び起こすというか、何というか、満ち足りた安らかな気持ちになってくるのです。 わたしにとって、この曲はユートピアみたいなものなのかもしれません。 この曲は、第2次大戦中に放送されていた「前線へ送る夕べ」というラジオ番組のテーマ曲として使われていたこともあり、特に、ある程度年齢が上の方々には広く知られている筈なのですが、その割には録音には全く恵まれていません。 わたしもかなり手を尽くして探したのですが、存在が掴めたのは、このCDの一種類だけですし、このCDにしても、NHKの名曲アルバムのオムニバスの一部に入っているに過ぎません。(演奏自体は、別に悪くはありません。いや、むしろ綺麗で良い演奏です) せめて、もう2種類ぐらいは欲しいところですが、こういう小曲って最近では全く流行っていないようで、これから録音が増える可能性はかなり少なそうです。 ただ、この名曲アルバムのCDは意外と役に立ちました。 それは、他の資料ではどうしてもわからなかった、作曲者のハイケンスの略歴が、解説に載っていた点です。 それまでは、ハイケンスについてはいつ生まれたぐらいしか分かってなく、いつ死んだかわからないのはもちろんの事、そもそもどこの国の人であるかすら不明でした。 その解説書によると、実は、ハイケンスはオランダ人だったのです。 北部のクローニンゲンの出身で、印刷所の経営者の息子だそうです。 その後、ケルンで本格的に音楽について学び、戦前から戦中にかけて主にドイツで活躍しました。 しかし、驚いたのは、最後がとても悲劇的であったことです。 ハイケンスは、大戦中にドイツで活躍したため、終戦と同時にドイツに協力した容疑で逮捕されました。 そして、その翌日……自殺してしまったのです。 そういう事情もあり、ハイケンスは現在、母国オランダでもほぼ忘れられた存在になってしまい、むしろ「ハイケンスのセレナード」が知られている日本の方が知名度が高いぐらいだそうです。(2002/10/11) |