J.ブラームス 悲劇的序曲

指揮ヴォルフガング・サヴァリッシュ
演奏バイエルン国立管弦楽団
録音1980年11月23日
カップリングモーツァルト 歌劇「魔笛」序曲 他
「Beruhmte Ouverturen」の一部
発売ORFEO
CD番号C 161 871 A


このCDを聴いた感想です。


 音色がまろやかに溶け合った厚い響きが特徴です。
 これはサヴァリッシュのバイエルン国立管の他の演奏とも共通しています。
 楽器の個々の音色はたしかにヴァイオリンならヴァイオリンらしくクラリネットならクラリネットらしく違いがありますが、音色同士が個性を主張してぶつかり合うのではなく、お互いに近寄り調和しています。常に全体として一つの和音があり、それぞれの楽器はあくまでも和音の一部なのです。しかも、この和音、というか響きは、楽器同士が隙間なくびっちりと固まった響きではありません。楽器同士が結びついた密度の濃い部分は響きの全体ではなくあくまでもコアだけで、地球もコアの周りに密度の薄いマントルがあるように、この響きも密度の濃いコアを中心として、周りを柔らかい響きによって厚く包まれています。
 この周りの響きは密度はそれほど濃くないためフワッと軽く、厚みがあるわりには重かったり息苦しくは感じません。むしろその柔らかさで楽器同士の音色の調和をさらに助けています。あまりにも響きが柔らかすぎて、音同士の衝突をほとんど和らげてしまい、不協和音だろうがなんだろうが優しい雰囲気に変えてしまうため、悲劇的序曲なのに悲痛にはほとんど聞こえずまるで全てが予定調和で進んでいく平安な世界になっています。この破綻の無さはこの曲に悲劇的な要素を強く求める人にとっては不満だと思いますが、ここまで調和した世界で最初から最後まで押し切られるとこれはこれで統一された完全な姿となり一種の迫力を感じます。
 そもそも音にしても、響きが厚く柔らかいからといって音の輪郭がぼやけているわけではありません。
 響きのコアは密度の濃い音があるため、アクセントや音の出だしのアタックは意外なほど明確に硬くついています。
 その最も典型的な例が冒頭の二つの和音です。
 優しいからといってフニャフニャした弱弱しい音になるのではなく、アクセントらしく硬く鋭い音で刻んでいます。これに響きが加わるため、硬く鋭くても今度は針のように細い刺すような音にならず、十分な厚みと重さがある音になるのです。
 鋭くても細すぎず、厚みと重さがあっても鈍くはならない、ちょうど良いバランスを保っています。
 わたしが手元に持っている14種類の演奏を聴き比べた限りでは、他の演奏では、例え鋭くても厚みという点で迫力が及ばなかったり、逆に厚みがあっても今度は重すぎたり鈍かったりと、こと冒頭の二つの和音に関してでは、このサヴァリッシュの演奏ほど、鋭さと厚みを兼ね備えた迫力のある演奏はありませんでした。(2007/5/19)


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