J.ブラームス 交響曲第4番 ホ短調

指揮ヘルベルト・フォン・カラヤン
演奏ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音1988年10月
発売Grammophon
CD番号427 497-2


このCDを聴いた感想です。


 カラヤンの演奏というと、ベルリン・フィルの常任になって以降は、ゴージャスというイメージと共に、人工的と言って良いほど完璧に整っているという印象がありました。しかし、この最晩年の演奏では、その印象を大きく覆されました。
 正直言って、初めて聴いたときは、これがカラヤンの演奏とはとても信じられなかったくらいです。
 たしかに、響きが厚く華やかな点はカラヤンのイメージ通りでしたが、人工的な完璧さはありません。個々の楽器の個性を強く前面に出し、そのためにはバランスが大きく崩れることも厭いません。スタジオ録音のはずなのに、スタジオ録音らしいコントロールしてきっちりと整えた音楽ではなく、まるでライブ録音のように多少逸脱しても強く歌いきった音楽になっています。
 とりわけ大きく逸脱しているのがホルンです。
 そのフォルテでの音色は、ほとんど割れる一歩手前の轟音のような響きで、ゴージャスというよりむしろ無骨に近い荒々しいものです。オーケストラ全体の響きとは明らかに異質で、全体が一斉に鳴らしている時ですら、ホルンの動きだけ浮き上がって聞こえてくるほどです。よくベルリン・フィルにこういう音を出させたものだと半ば驚き半ば感心しました。カラヤンはイギリス系のホルンの音色を好んでいたらしいのですが、最晩年(録音が1988年10月ですから亡くなる9ヶ月ほど前)至って、ついに自分の目指す音色を徹底したということなのでしょうか。ただ、この音色はイギリス系としてもちょっと突き抜けすぎではないかと思いますが。
 ホルン以外の楽器も、音色はまだしも歌いこみ具合はこれまた常軌を逸しています。
 メロディーでは、これでもかこれでもかとばかりにネットリと力を入れて歌い上げます。
 テンポはほとんど伸び縮みさせず一定を保っていますが、ビブラートはたっぷりとかけ、なにより個々の楽器の響きがベルリン・フィルの奏者の腕を十分に活かした厚くゴージャスなものなので、メロディーの訴えてくる力は尋常ではありません。古楽器系などの小編成のオーケストラでは不可能な、有無を言わせぬ迫力で迫ってきます。
 とにかくやりたいことは全てやりつくしたという演奏で、ベルリン・フィルの腕と響きの厚みを最大限に利用して、さらにもう一歩踏み込んでいます。カラヤン自身の思いが強く表れているという点ではたしかに最晩年らしいのですが、オーケストラをやりたい方へ引っ張るパワーと大きく引き上げる高揚感はとても最晩年とは思えないほどです。
 演奏とは直接関係ありませんが、このCDはジャケットのデザインも非常に気に入っています。
 デザインとしてはかなりシンプルなもので、夜空のような暗い色の地に、左上から右下に向かって斜めにレーザーのような光が一本走っているだけ。それにグラモフォンお馴染みの黄色いラベルが上部に乗っかっています。たったそれだけのデザインですが、シンプルにして天からの光のような神聖さもあり、ピタッと決まっています。
 ちなみに、この演奏と同時期に他の交響曲第1〜3番も録音されていて、残念ながら持ってはいませんがそれらのCDも同じデザインでした。巷の評判によると、この全集の四つの交響曲の演奏の中で最も出来が悪いのが第4番なのだそうです。その第4番がこれほどの演奏ということは、他の3曲の演奏は一体どれほどの演奏なのか。ぜひ手に入れて聴きたいと思っています。(2007/7/21)


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